不動産知識・テクニック

アパート・マンション自主管理マニュアル②「入居者クレーム対応」

第2回は入居者からのクレーム対応についてです。

アパート・マンション自主管理マニュアル①:入居者からの連絡受付体制

クレーム対応における思考の軸


最初にはっきり申し上げますが、クレーム対応は「ああ言われたらこう言え」的な一問一答ではありません。

直接的な問題の解決だけであれば割とシンプルですが、落としどころを定めるまでがクレーム対応であり、それには付随する問題、例えば、問題発生の原因や、被害や使用制限に対する賠償、関係者の感情的もつれまで含まれケースとしては無限です。
 

ケースは無限でも、私は軸となる考え方はあると思っています。

・入居者にそれを求める権利があるか
・オーナー(または管理者)がそれをする義務や権利があるか
・賃貸経営は商売であり入居者はカスタマーである
・永続的なアパート&マンション経営を行う上で望ましいのは何か
・入居者の切迫度、リテラシーにより伝え方や対応が変わる

ケーススタディ

具体例で考えてみましょう

共用廊下に虫の死骸があるので除去してほしい

例えば共用廊下の真ん中にでっかいゴキブリの死骸があった場合です。

 
まず、共用廊下はオーナーの判断で除去する権利はあります。

対して、入居者には一定程度の管理クオリティーを享受する権利がありますが、共用廊下の使用を妨げるレベルではない死骸の除去を要求する権利はありません。

また、死骸を除去するコストは物件に行く足代だけですが、死骸の除去を拒めば入居者は気分を悪くしエンゲージメントが下がるかもしれません。その結果、退去となれば何万、何十万円もの賃料を喪失する恐れがあります。

ただし、死骸を除去すれば入居者にそれを求める権利があると誤ったメッセージを送ることになり、今後の関係構築の足枷となるかもしれません。

 
なので、契約上や今後の関係上は除去が必ずしも適切ではありませんが、揉めるくらいならやった方がマシということになります。

 
あるときは、すぐにはできませんが来週定期清掃があるのでそのときに対応します、となり、

またあるときは、わかりました今回は〇〇さんのご依頼なので早めに対応しますが、毎回はできないのでその点はご了承ください、となり、

そのまたあるときは、お住まいであればよくご存知だと思いますが昆虫が多いロケーションで恐れ入りますがその点はご了承願います、となります。

 
言うまでもないですが、基本、口調や文面はソフトな方がいいと思います。スムーズに解決させるためには相手に構えさせない方がいいからです。

ただし、相手が常識的でなかったり、こじれそうな場合はその限りではなく、最悪、裁判を意識して、第三者が見てもわかるように内容や論理構成を明白にするよう心掛けるべきでしょう(もちろん高圧的な対応や無視するのは論外です)。

上階住人による騒音

もう一例。上階の人間が夜中もやかましくて眠れないと連絡があった場合です。

 
まず、オーナーは物件の適切な運営を妨げる非常識な賃借人に対して是正を要求する権利はありますが、相手の自由を制限することになるので、基本的人権の尊重を謳う日本国においてそんな強権は発動できません。また、その時点でオーナー自身が騒音を聞いているケースは少なく、一方のみの主張で騒音と断定はできません。もしかしたら申告者がずぬけて神経質なのかもしれません。とはいえ、わざわざ騒音を確認するのも労力ですし、確認に行けば後に引けなくなる恐れがあります。

一方、入居者は一定程度の管理クオリティーを享受する権利はあっても、オーナーに対して相手への是正措置を請求する権利はありません。なお、入居者は騒音により被害があれば相手方に直接損害賠償請求することは可能ですが、仮に裁判する場合は入居者に立証責任があり、勝訴するにはよっぽどの継続的爆音でなければなりません。

オーナーの都合で言えば、お互いが騒音の発生に注意しながら、相手の騒音にも寛容になってもらい、矛を収めてもらえるのがベストですが、その程度で収まらない常識外の騒音であれば、申告している入居者以外もそれを理由に退去したりして物件の収益性や価値が棄損されますし、そんな非常識な人間であればいずれ騒音以外の問題を起こすでしょう。

 
これらを総合的に判断します。

 
まずは、入居者に騒音の記録を付けてもらいながらしばらく様子を見てもらったり、

騒音がやまず、記録の結果が確かに常識外であれば注意文を出したり、

それでも続くならオーナー自身で騒音を確認の上、強めの文書を出したり、

それでも続くなら入居者の問題とオーナーの問題に分け、入居者には対応の限界を伝え、オーナーとしては自分の物件を守るための措置をしたり。

 
なお、余談ですが、多くの契約書特約に騒音厳禁みたいなことが記載されています。管理者が騒音のクレームを受けたくないので記載していると思われますが、騒音を繰り返す非常識な入居者にはそんな条文で抑止効果はありませんし、騒音で迷惑している入居者はその条文を根拠にオーナーに是正を請求してきます。別の言い回しにすべきでしょう。

私もクレーム対応勉強中です


最初に申し上げましたが対応に唯一の絶対的正解はありません。仮に正解らしきものがあったとしてもケースは無限なので覚えきれません。

なので、クレーム対応力を身に付けるには、考え方の軸をもとにトライ&エラーを繰り返すしかありません。

なるべく状況を俯瞰的に捉え、断定はできないながらも、落としどころを見据えながら相手にアプローチしていくのですが、建物や法律の知識、バランス感覚、コミュニケーションスキル等が必要になります。
(いずれは生成AIが代替してくれるかもしれませんが)

 
経験を重ねるうちにあまりにも相手が非常識だったり、不毛な論争に発展することもあるでしょう。はっきり言ってストレスフルな仕事です。あまりに不毛な経験をするとこちらも構えてしまい、入居者から連絡がくるだけで心拍数が上がります。

そこを乗り越えられるかどうかは意識、本気度の問題だと思います。逃げずに解決に取り組む姿勢でいれば、どんな相手の心もいずれ動く!

かもしれない…。

 
と、偉そうに言っている私自身も現在進行形で入居者を不快にさせたり、または、オーナー側に必ずしも必要でない出費をさせたりしています。私も目下、勉強中です。

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shiro-shita

仙台在住の”不動産コンサルタント” 就職超氷河期世代かつリーマンショックの直撃を受けたりと時代に翻弄され不動産会社を転々。苦く、しょっぱい経験に裏打ちされた不動産スキルはある意味ではリアルそのもの。

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