不動産知識・テクニック

【解説】アパート・マンション管理業者の選び方

管理業者は現状分析力・改善提案力・運営力・オーダーメイドプラン対応で選ぶ

アパート、マンション等の賃貸不動産オーナーが所有物件の管理を依頼するなら、どういった基準で管理業者を選ぶべきでしょうか?

賃貸管理というビジネスは多分、明治時代からあり、遅くとも50年前には今と近いかたちになっていたはずですが、その割には大半のオーナーが「入居者募集に強い」とか「信頼できる」といったふわっとした理由で管理業者を選択しており、管理業者の側も、管理ができるエリアや規模、もしくは鍵や必要書類が揃っているかの確認程度で受託しています。

本来は重要なはずの、現状の課題の解決、収支の改善、資産価値の向上といったことが論点となることはあまりありません。

 
このように管理について深掘りの議論がされてないのは、現状はまだ、オーナー側は賃貸経営は物件さえ所有すれば後は自動的に収益を生むビジネスと捉え、管理業者側は管理業務のクオリティーを上げることよりも地域一番店になることが管理受託に最重要と認識しているからだと思います。要は、昭和の感覚のままということです。

 
しかし、賃貸経営を巡る状況は昭和のままでしょうか?

人口減少&少子高齢社会に突入し、にもかかわらず相続税対策のためにアパートが大量供給され、さらに、賃貸経営にプロ経営者が続々参入し、賃貸経営のレッドオーシャン化が進行中です。

今後も賃貸経営で収益を上げていこうと思うのであれば、オーナー側も管理業者の側もこれまでの感覚で管理を依頼したり、受託していては徐々に劣勢に追いやられることは火を見るよりも明らかです。

今後の賃貸経営においてどのような管理サービスが求められ、どのような基準で管理業者を選定すればいいでしょうか。

 
個人的には、下記が今後の賃貸経営における管理業者の選定基準だと思います。

  • 現状分析と改善提案力
  • 運営力とオーナーに合わせたオーダーメイドプラン

順に解説していきます。

現状分析と改善提案力

現状分析力

管理業者にまず求められることは現状分析力です。

管理業者の選定(変更)を検討するのはオーナーが現状に課題を感じていたり、将来への不安があるケースが多いと思います。まずはその課題や不安のもとを正確に把握する必要があります。

現状分析では主に下記の項目を分析します。

長所・短所

室内洗濯機置き場がない
風呂とトイレが同室
間取はファミリータイプだが駐車場がない
管理が行き届かず共用廊下はゴミとカビだらけ

そういった物件であればなかなか入居者を獲得しづらいでしょう。

逆に、

駅から徒歩5分
スーパー、学校へのアクセスがいい立地
開口部が公園に隣接している
清潔感溢れる共用部

そういった物件であれば明確な強みとなるでしょう。

短所にはリフォーム等によって克服できるものとそうでないものがあります。
また、克服できるにしても費用対効果が合うものとそうでないものがあります。

物件の長所と短所、短所克服のコスパを総合的に分析します。

プロモーション

入居の見込客にどのような手段で空室情報を届け、どのようにアピールしているでしょうか。現状のプロモーションの状況を確認します。

  • 掲載媒体(不動産検索ポータルサイト、自社HP、雑誌、店頭広告等)
  • 不動産検索ポータルサイトにおける検索性
  • 掲載内容、訴求ポイント
  • 他の不動産会社への情報発信と共同仲介体制

情報が掲載されていなければ話になりませんが、掲載されていても情報が埋もれよっぽどじゃなければ辿り着けないとか、物件ページが表示されてもコンテンツが薄く見込客の関心を惹きそうもなければ不十分です。

また、一般顧客向けのプロモーションと同レベルに重要なのが不動産会社向けのプロモーションです。いくら管理業者が地域一番店で見込客からの問い合わせが多かろうと、全部屋を一社で決め切るのは現実的ではありません。他の不動産会社にどのように情報提供し、成約時にどう手数料配分しているのかを確認しましょう。

競合物件

近隣にある価格帯や間取が似ている物件の募集状況、成約状況を分析します。

競合物件と対象物件との差異、稼働状況、プロモーション施策を把握できればよりピントのあった戦略を立てることが可能となります。

また、残念ながら競合物件も入居者獲得に苦戦しているのであれば似た入居施策でどんぐりの背比べをしても効果が薄いということになります。

改善提案力

現状分析によりえられた情報をもとに今後の運営における戦略を立案します。

入居促進(インカムアップ)
  • バリューアップによる入居促進
  • 賃貸条件変更による入居促進

バリューアップによる入居促進は部位でいえば専有部分(内装リフォーム等)、共用部分(外装リフォーム等)とソフト面(無料インターネット提供等の顧客サービスの拡充)があります。

建物は室内外ともに時間の経過とともに経年劣化していきますが、対して顧客の要求水準は時間の経過とともに上がっていくので、いずれは単なる修繕(劣化したものを元に戻す)を超えたバリューアップ(元の状態よりも高水準にする)が必要になります。

賃貸条件変更による入居促進はさらに値引きと条件緩和とがあります。

値引きには家賃等のランニングコストを下げる他に、敷金等のイニシャルコストを下げたり、フリーレントで一定期間の家賃を無料にする方法があります。

条件緩和では日本語の話せない外国人や身寄りのない高齢者といった受け入れ属性を広げたり、ペットの飼育を可能にしたりといった方法があります。

値引き、条件緩和は別モノに思えますが行き着くところは一緒です。ランニングにしろイニシャルにしろ値引きをすると属性は低下しますし、低属性を受け入れて入居者にそのような人が増えると全体的に値引き圧力が掛かります。あまりにも値引き・条件緩和に依存した入居策では賃料が下げ止まらなくなったり、トラブルの頻発等、かえって負の影響が大きくなることがあるので、それらも考慮して実施の是非を判断する必要があります。

資産価値の向上(キャピタルアップ)

バリューアップは前段の入居促進策であると同時に物件の資産価値にも大きくかかわります。

バリューアップの検討に際してはそれが入居策としてインカムにどれだけ寄与するかという観点と、仮に物件を売却する場合にどれだけ売却価格を押し上げるか、長期の資産価値の維持にどう貢献するかというキャピタルの観点も重要です。

例えば共用廊下の床の貼替はやっても賃料が上がることはほとんどないので、ボロボロになってもそのまま使うオーナーもいますが、物件の資産価値を棄損し、いずれは入居率の低下といった収入の減少につながります。

インカムの減少の先行指数がキャピタル(資産価値)の減少であり、資産価値をキャッチアップすることでインカムの減少を未然に防ぐことができます。

これまでの管理業者はソフト面、インカムのみに関わり、ビルメンテナンス会社がハード面、資産価値(キャピタル)に関わり、その二つを統合して考えることはほとんどありませんでしたが、今後は一体的に考えるべきです。

プロモーション施策

現状分析により把握されたプロモーションの課題の改善を図ります。

不動産賃貸における広告は下記等があります。

  • 一般向け広告:インターネット広告(athome、SUUMO、Homes、SNS、自社サイト他)、現地看板
  • 不動産業者向け販促:情報提供(業者向け一斉FAX、業者まわり)、広告費(成約時に客付け業者に支払う手数料)
  • 内覧対応:内覧受付体制(受付窓口、現地キー)、室内状態(ハウスクリーニング、ステージング)

なるべく情報掲載量を増やし、なるべく検索表示されやすいよう項目や条件を工夫し、掲載内容を見込客の興味を惹くよう条件や間取図、写真のクオリティを上げ、他の不動産会社にも協力が得られるよう情報開示や手数料配分を見直します。

また、不動産会社からの内覧したい旨の連絡は直前にすでに顧客を引き連れている状態であることが多く、なるべくスピーディーに応対して、鍵は現地でキーボックスを利用するようにしないと見込客の取りこぼしが発生しかねません。
(ただし、窓の閉め忘れ電気の点けっぱなしといった問題も発生しやすくなります)

運営力とオーナーに合わせたオーダーメイドプラン

運営力

今後の管理においては日常的な管理業務を現代的にスマートに、それでいて十分なクオリティーで、特段の弱点なくこなすことがこれまで同様に重要です。

管理業務は様々な業務の複合体です。

  • 入居者からの連絡受付
  • 非常時対応
  • 入金管理
  • 滞納者への督促、回収
  • ビルメンテナンス
  • 入居者募集
  • 入居審査
  • 賃貸借契約
  • 解約精算
  • 原状回復工事

などがあります。

今後の賃貸経営においては、現状の課題の解決、収支の改善、資産価値の向上といったコンサルティングがより管理業者に求められますが、そのようなコンサルティングは当初の計画を立てたり、その後の見直しのタイミングでは重要ですが、日々日常においては実運営の手足の部分がほぼほぼとなりますので、日常業務を適切に処理する能力・体制は当然ながら欠かせません。

 
オールドな管理業者は日常業務の部分が強みであるはずですが、管理委託契約時には会社としての組織の強みをアピールしていた割には、実際に問い合わせると担当者が休みとか外出中でわからないと普通に言ってのけられることが非常に多いです。属人的な業務からチーム制へ移行する一時的エアポケットなのかもしれませんが、一般的な管理業者は従業員の給与水準が高くはなく、昇給も稀で、業務内容はクリエイティブではないので優秀な人材は枯渇傾向であり、むしろ終わりの始まりなのだと思います。

オーナーとしては劣化する管理業者のガミを食わないように危険な雰囲気の管理業者は早めに見切りをつけるべきです。

オーダーメイド対応

様々な業務の複合体である管理業務について、オーナーと管理業者が管理の各業務について役割分担を個別に定めるオーダーメイド管理が今後は望ましいと考えます。

 
これまでは特に地場の管理業者の場合、管理業務の範囲をあまり明確にせず何となくまるっと業務全般を請け負っていました。サービスクオリティーはほとんど何の実務もできないオーナーとくらべれば管理業者のそれは上回りますが、特別に高いレベルではないことがほとんどで、言わば70点管理です。

そこまで厳密に管理業務の範囲を定めずに、そこまでのサービスクオリティでなくても賃貸経営が成り立つ時代だったのです。

しかし、これからの時代70点で成り立つかは不透明です。しかも、管理業者が劣化し70点管理ですら提供できるか怪しくなっています。

 
全国規模の大手管理業者ならどうかと言うと、

確かに大手であれば倒産の心配はほぼないでしょうし、人材は地場の管理業者にくらべれば厚いです。

しかし、地場業者にくらべて大手は広告費、出店費用、人件費がかさんでいるので管理にかかわるトータルコストは地場業者より高いです。

賃貸管理料は賃料の5%程度と地場業者と同水準ですが、大手が管理すると、除菌費用や安心サポートだのと入居者に様々なオプション契約を強制加入させますし、更新事務手数料も高めです。まずは入居者の負担増加となりますが、それはいずれオーナーに賃料下落や更新拒絶といったかたちで波及します。

実は管理業者にとって退去はありがたいのです。退去すれば原状回復工事をするので、管理業者指定のリフォーム会社から管理業者にバックマージンが発生し、その後に新たな入居者が入れば仲介手数料がゲットできます。

賃貸業界におけるマネーの源泉は入居者からの賃料で、それがオーナーに入り、そこから管理業務委託料を支払ったり、修繕工事が発注されたり、備蓄された賃料はいずれ新築アパートの建築費に充当されたりしますが、日本が人口減少社会を迎えている以上は業界に流入するマネーが縮小する可能性が高いです。それにもかかわらず大手管理業者は成長前提の経営計画を立てています。そのしわ寄せはまずは入居者に向かいイニシャルコスト、ランニングコストを押し上げますが、入居者の可処分所得の増加がそれに伴わない場合、いずれそのしわ寄せはオーナーに来るというか、すでに大部分の管理業者の収益はオーナー利益を侵食することにで得られています。

 
劣化していく70点管理と、利益を侵食してくる管理のどちらがいいでしょうか?

もちろんどちらもNOです。

 
そこで、取り組むべきはオーダーメイド管理です。

物件ごと、オーナーごと、管理の各業務について管理業者とオーナーで役割分担を協議し取り決めるのです。

依頼する業務の範囲を見直して(減らして)一部をオーナー自らがやることで管理業務委託料を下げるのが第一の目的ですが、オーナー自身も実業務を行うことでノウハウを得て賃貸経営力を高められますし、万が一、管理業者に担当者の退職や倒産があっても賃貸経営への悪影響を減らすことができます。

 
管理業者にオーダーメイドを要望したものの対応できないとか、実際にやってみるとレスポンスが悪くて話にならないということなら、管理業者の組織が膠着していて、今後の社会の変化に対応できず淘汰される可能性が高いです。もしくは、管理業者の業務を減らしてもほとんど管理業務委託料を下げないとか、一部業務については頑なに管理業者での実施を条件にするのであれば、それは下請けからのバックマージンといった管理利権を喪いたくない可能性が高いです。

管理業はもともとはオーナーをサポートするためのサービスで、オーナーに合わせて提供されるべきです。それを管理業者のやり方にオーナーが合わせなくてはならないのだと本末転倒です。管理業者の根本的な姿勢に問題があると言わざるをえません。

まとめ

冒頭で述べたように現在は大半のオーナーが管理業者を「入居者募集に強い」とか「信頼できる」といった基準で選択しています。

 
しかし、入居者募集に強いというのは具体的にどういった施策によって実現されるのでしょうか?

また、信頼できるとは管理業者の各業務をチェックした上での判断でしょうか?

 
オーナーとしては特に何も手を掛けずに管理業者が入居者を埋めて問題を起こさずに運営してくれるに越したことはなく、入居者募集の具体的な方法や、物件に問題が起きた時の具体的対処法について一切かかわらないでいられるのが理想でしょう。

理想的な状況がずっと続けばいいのですが、仮にその状態が崩れると、そういったオーナーは”だるま”状態に陥ります。

現時点ではまだ理想的な状況が続いているなら、やるべきことは今のうちにこの世の春を謳歌するのではなく、冬の時代に備え、管理業者任せを見直して、オーナー自身の賃貸経営力を高めるべきです。

何も管理業者への委託をやめて自主管理すべきとは言っていません。

賃貸経営に関する知識・ノウハウの習得に努め、管理業者の業務やその勘所を理解しましょう。そうすれば管理業者から一目も二目も置かれ、管理業者の本気を引き出した上で、オーナーと管理会社のシナジーを高めることができるはずです。

その段まで至れば、「入居者募集に強い」とか「信頼できる」といったふわっとした基準ではなく、より具体的で実践的な基準で管理業者を見極められるようになるでしょう。

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shiro-shita

仙台在住の”不動産コンサルタント” 就職超氷河期世代かつリーマンショックの直撃を受けたりと時代に翻弄され不動産会社を転々。苦く、しょっぱい経験に裏打ちされた不動産スキルはある意味ではリアルそのもの。

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