賢人は不動産賃貸を不動産会社に丸投げしない
今回は不動産活用の方向性を賃貸と決めた場合のプロセスです。
前々回の記事:【解説】不動産活用の検討プロセス
前回の記事:【解説】不動産売却のプロセス
賃貸の目的は合理的資産活用だが何が合理的かはそれぞれ異なる
賃貸を選んだ方は、売買のように、例えば資金が必要とか、急な転勤といったはっきりした目的・理由があり、目的先行で選んだということはあまりないと思います。
多少なりとも切迫している状況として、相続が間近に迫り(いつ死んでもおかしくない)相続税対策のために賃貸で相続税評価を下げたいようなケースもありますが、それでも、第一優先はそうでも、なるべく、今後保有していく中で収益性やリスクが適切な合理的資産活用をしたいと考えるはずです。
先祖代々の土地だから自分の代では売りたくない、東京に行った息子が戻ってきたときに使うかもしれないので売りたくない、それでとりあえず賃貸というのは、一見すると古い考えのようですが、その方の主観によれば合理的なのでしょうし、不動産は一度売るともう戻ってくることはまずなく、また、別の資産を購入して活用するにしても取得経費が掛かるので、なるべく現に所有している不動産を活用した方が多くの場合で有利なので、実は客観的にも合理的だったりします。
ひっくるめて言えば賃貸にする目的は合理的な資産活用のためであり、何が合理的なのかはその人の置かれている状況や価値観によります。
その資産が、余裕資産なのか~生活の基盤をなす資産なのか
自身のリスク許容度が、高くてコストと労力を掛けられるか~低くて経費も手も掛からないか
運用期間が、無期限でいいか~期間限定か
相続や事業承継対策が、必要ないか~必要か
自分にとって何が合理的かを見定め、なるべくその合理性に沿った賃貸活用になるよう本プロセスを踏みながら具体的なプラン、運営を検討していただければと思います。
アナライシス
プランを決める前に現状分析を行います。
ファンダメンタルズ
物件の強みと弱みを分析します。
- 立地は駅からどれくらいの距離か、周辺環境はどうか
- 築年数は何年で建物の外観はどうか
- どんな間取で設備仕様はどうか
- 駐車場はあるか、使い勝手はいいか
- その他、借り手目線で良い部分や悪い部分はないか
- 致命的な欠点があったりしないか
そのように物件特性や長所・短所を把握します。
想定顧客
物件特性からして市場にどのように評価され、どのような顧客がターゲットになるか分析します。
駅や大学に近い単身用なら学生や若いサラリーマン
郊外でそれなりの広さがあればファミリー層
商店街の店舗なら物販店や飲食店
そして、その顧客ターゲットは層が厚いのか、薄いのか、どういったニーズを持ち、どういった基準で物件を選ぶのかを推測します。
競合物件
同じ顧客層をターゲットとしている入居者募集中の物件を検索し、競合物件として分析します。
競合物件の賃貸条件、建物グレード、面積、設備仕様等はどのようなものでしょう。
競合物件を分析することで、自分の物件の市場における競争力が見極めます。
バリューアップ検討
賃貸プランでは物件をそのまま貸すこともありますが、通常は壁紙や床を張り替えたりハウスクリーニングを行うことが多いです。
場合によっては、抜本的にリフォームしたり(リノベーション)、住宅をシェアハウスにしたり、店舗にしたりといった用途を変更することもあります(コンバージョン)。
そういった貸すまでに必要なバリューアップの見積を取り、施工内容詳細を検討し、コスパの最適化を図ります。
賃貸プラン・条件の決定
現状分析によって得られた情報を煮詰めて賃貸プランと、月額賃料といった賃貸条件を決定します。
冒頭に記載したようにどういったプランが合理的資産活用なのかは、その方のリスク許容度、運用期間、相続・事業承継対策の必要性によって異なりますので、収益が最大化するプランが一様に望ましい訳ではありません。
基本、リスクとリターンはトレードオフするので収益を求めればリスクが高くなります。
プランが決まればすなわちバリューアップ内容も決定ですが、内容にもよりますが工事実施を借り手が決まってからという条件で募集することもできます。もちろんバリューアップを仕上げてから募集した方が借り手にとってはイメージしやすく、スピーディーに入居できますが、本当に借り手がつくか自信がなかったり、バリューアップ費用が多額の場合は現実によく取られる方法です。
エグゼキューション
決定したプランを実行に移します。
不動産会社への依頼
自分で入居者を募集するか、不動産会社に依頼するかですが、
不動産会社に依頼するメリットとしては、
- 不動産会社が加盟している不動産検索ポータルサイトに物件を掲載したり、独自のネットワークから顧客に紹介してもらえる
- 契約書類の作成や契約手続きを行ってくれる
- 依頼費用は成功報酬で、しかもそれすらタダにすることも可能
逆にデメリットとしては
- 借り手は仲介手数料やその他名目の不動産会社のフィーが上乗せされ負担が増える
- 物件の競争力が低かったり地域慣習によっては別途数か月分の広告費の支払いが必要になることがある
- 不動産会社から管理の提案をされることがあり、中には断ると募集に力を入れてくれない不動産会社がある
- バリューアップ前だと不動産会社の紐付きのリフォーム会社を紹介され、バックマージン分の費用が乗ることがある
結論を言うと完全自前主義でなければ不動産会社に依頼する、もしくは自分での募集活動と並行して依頼するのがいいと思います。
仲介手数料が掛かるという理由だけで物件の賃貸を取りやめる借り手は、長い目で見ればその何十倍とかの賃料負担があることを考えると少し考えが偏っており、少なくとも貸し手目線ではいい借り手ではありません。
広告費が多額に掛かる場合、それはつまり物件の市場性が低かったり、取引における不動産会社のイニシアティブが強い市場ということであり、根本的な解決手段は物件の競争力を上げるしかありません。
粗悪な管理や、割高なリフォーム、無駄な広告費負担を求める悪質な不動産会社さえ選ばなければ貸し手にとって不動産会社に依頼するデメリットは実質的にないのです。
適切な不動産会社を選んだのなら、バリューアップや募集条件のアドバイスもしてもらうといいでしょう。
もともと管理をどこかに依頼する計画で、その不動産会社が依頼先として適当そうであれば入居者募集の段階から関わってもらった方がいいでしょう。
プロモーション
不動産の広告や集客は下記のようなものがあります。
- 不動産検索ポータルサイト(athome、homes、suumo)
- 現地看板
- チラシ投函
- 住宅情報誌
- 不動産会社での店頭表示
- 不動産会社に一斉FAX・メール
不動産検索ポータルサイトが主力となるので、なるべく想定顧客にアピールできるよう写真や間取、説明を工夫して入力することが重要です。
現地写真がない、間取図が図面をスキャナしただけ、いくつかの路線を利用できるのに最寄駅しか記載していないようなのは論外です。
また、不動産会社同士での共同仲介も成約ケースの多くを占めるので、依頼している不動産会社が他の不動産会社にどういった手数料割合で紹介しているかも重要です。
地域慣習にもよりますが借主折半(借り手から受領する手数料の半額を元付にバックしなければならない)だと、元付以外の不動産会社は積極的に顧客に紹介しようとは思いません。
ただし、この手数料の原資はあなたが元付に支払う手数料(広告費)です。自分が一切手数料を払わないのに客付けにたくさん分配しろと言っても無理な話で、元付会社とざっくばらんに協議すべきでしょう。
契約・引渡し
借り手が決まれば契約書類を作成し契約手続きとなります。
契約書の内容は契約するときのみならず、今後賃貸借契約が継続している間ずっと貸し手も借り手も拘束するので非常に重要です。
しかし、多くの不動産会社は売買仲介程の熱量で契約書作成を行いません。賃貸仲介は売買仲介程の売り上げにならないからです。
なので、不動産会社が仲介する場合でも貸し手が主体的に契約書作成に関わるべきです。
ただし、もちろん入居者募集時に掲げていなかった重要条件を契約時に後出しするのはNGです。
当初のプラン、条件設定を前提に借り手と賃貸条件を協議し、その内容を適切に契約書に反映するよう心掛けましょう。
運営
賃貸の場合はむしろここからが本当のスタートになります。
今後運営していく中で、当初の計画にどれほど沿っているかは重要ですが、残念ながら予定収支を下回っているからといってすぐさま賃料を値上げする訳にはいきません。当初計画の良し悪しを検証しながら、反省があれば今後に生かし、状況に応じた管理運営をしていく他ありません。
なお、物件の日常的な清掃やメンテナンスとともに中長期的スパンでの修繕を実施していく必要があり、また、顧客ターゲットや競合物件といった市場性も刻々と変化していくので、物件の現状分析や運営方針の検討は今後も継続的に行っていく必要があります。
まとめ
賃貸と売買なら何となく賃貸の方がハードルが低いように思う方もいらっしゃると思いますが、むしろ逆で、不動産仲介会社が介在しても貸し手が主体的に行わなければならないことは売買より多いです。
アパートを新築するといった建設会社や管理会社にとって金になるプロジェクトであれば手取り足取りやってはくれますが、果たしてそのような業者主体のプランは十人十色の価値観と合理性を理解しそれに沿ったものとなるでしょうか。
貸し手自身の考え方が非常に重要ですが、いくら自身の所有物件とはいえ、その資産価値や物件特性を的確に把握し、資産活用についての価値観が出来上がっている方は少数派です。それらは資産について様々検討する中で培われるのです。
特に、賃貸の場合、借り手がついた後は賃貸経営者として事業をする立場となります。
なるべく主体的にこのプロセスに取り組むことを通して、単なる資産ホルダーからご自身の価値観を身に付け、さらに事業者へのレベルアップを図っていただければと思います。
shiro-shita
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