アパート・マンション自主管理マニュアル⑫契約・引渡しの流れ

不動産知識・テクニック

アパート・マンション自主管理マニュアル⑫「契約・引渡しの流れ」

自主管理における賃貸借契約から物件引渡しまでの事務手順

第12回は入居審査承認後の契約・引渡しの流れについてです。

アパート・マンション自主管理マニュアル①:入居者からの連絡受付体制
アパート・マンション自主管理マニュアル②:入居者クレーム対応
アパート・マンション自主管理マニュアル③:非常時体制
アパート・マンション自主管理マニュアル④:入金管理
アパート・マンション自主管理マニュアル⑤:管理業務支援ツール
アパート・マンション自主管理マニュアル⑥:滞納者への督促・回収
アパート・マンション自主管理マニュアル⑦:ビルメンテナンス
アパート・マンション自主管理マニュアル⑧:入居者募集方法
アパート・マンション自主管理マニュアル⑨:入居者募集資料
アパート・マンション自主管理マニュアル⑩:案内・申込み
アパート・マンション自主管理マニュアル⑪:入居審査・保証会社

契約・引渡しの流れ

入居審査承認後は下記のような流れになります。

  1. 客付不動産会社に審査承認、契約条件の連絡
  2. 入居日確定
  3. 契約書類作成
  4. 契約書をオーナーが押印し客付け不動産会社に送付
  5. 借主契約、契約金支払い
  6. 契約書類返送
  7. 物件(鍵)引渡し

こちらで記載したようにすべてメールでやり取りします。

今回は契約手続きの流れに絞って記載し、賃貸借契約書の中味については次回とさせていただきます。

審査承認と契約意思確認メール

(以降すべてあくまでも私のやり方となります)
審査承認の連絡の際に下記のことを一通のメールでお伝えします。

まずは審査が承認されたことを伝えます。
そして、承認に条件が付されていたり、逆に借主から条件提示があった場合の回答も含め一旦契約条件を整理します。
次に、契約に進む場合の今後の手順を記載します。
その上で、これらすべてを承諾して契約に進むか、契約に進むなら入居日(契約開始日)を確定するよう依頼します。

 
契約条件や今後の流れを記載するのは整理するためもありますが、後の言った言わないを防ぎ、トラブル時に自分の身を守る意味合いもあります。メール一通にしてはボリュームがあるので実際に客付不動産会社が読んで理解してくれているかは怪しいですが、それでトラブルが起きた場合は客付会社はプロなので相手の落ち度となります。
(客付会社を挟まないで借主と直接取引する場合は相手がプロではないので相手が理解しているか気を配る必要があります)

 
契約に進むのか意思の確認といっても、契約書の細かな約款を提示しておらず、実際にこの後でキャンセルになっても責任を追及することはできませんが、主要な条件は明らかになっており、この時点で確認しておけば土壇場でキャンセルになる可能性は下がります。

急いで入居しようとするケース

中には急ぎで入居しようと無理目な日程を提示してくる借主もいます。

私の場合、今後の契約の流れにオーナー側で必要な目安日数を提示し、期限までに契約金の支払いと契約書類が整わない場合は鍵を引き渡さないとしており、借主側(借主と客付会社)で手続きに必要な日数を検討して、それでも急ぐのかの判断、そして、急ぐ場合のリスク負担(間に合わないと期日になっても鍵が引き渡されない)をしてもらっています。

目安日数を提示することと、それが他社よりもスピーディーなのである意味では堂々と借主側に判断を委ねられますが、管理会社が社長がいないと印鑑押せない、社長がきまぐれでいつ出社するかわからないみたいな会社だとそこまで偉そうに提示できないでしょう。

 
なお、急ぎ入居の多くは下記の2パターンです。

  • 借主に都合があり急いでいる
  • 繁忙期に社宅代行会社がかかわるケースでとにかく業務量が多くひっ迫しているので入居だけして事務手続きは後ろ倒ししたい

借主の都合にはなるべく合わせてあげたいですが、引越しに必要なのは新しい住まいだけではありません。荷物の運搬や諸手続きにかかる日数を検討すると仮に新しい住まいが使えても間に合わないということもあります。その場合、見切り発車で進めると様々無駄になるので、まずはなるべく冷静に判断するよう仕向けます。

社宅代行は企業の転勤の多い3月に業務が集中します。社宅代行のお客様はいいお客様が多いので便宜を図ってもいいのですが、こちらが甘い顔をしていると入居から1ヶ月経っても契約書を送り返してこないこともあります(怒) ただし、予め入居日までに手続き完了しないと鍵を引き渡さないと伝えると、たいていは期日通りに手続きしてくれます。期日に遅延し引渡しができないと社宅代行にとって一番大切なクライアント(社宅業務発注者=借主)に迷惑かけることになるので、他の契約を差し置いても手続きせざるをえないのです。少しかわいそうですが社宅代行もプロなのでそれくらいして問題ありません。

以降のやり取り

私の場合は契約書の案を一旦メールで送り客付会社に確認してもらい、OKが出た後で原本を送っています。
(例によってちゃんと確認してくれることは稀ですが、その場合でも客付会社に責任が生じます)

契約書送付時には併せて保証会社の保証委託契約書、賃料の自動振替依頼書、電気やガスといった関連契約の手続き案内、ゴミ置き場の説明(行政のパンフ)等を同封します。(物件等により異なります)

その後、契約金の支払いがあり、契約書が返送され、記入漏れ等なければ、契約開始日前日に客付不動産会社に鍵を渡します。

問題は契約開始日になっても書類提出が間に合わなかったり不備がある場合です。私は予めその場合は鍵を引き渡さないと伝えてはいますが、本当に鍵を引き渡さないかはケースバイケースです。落ち度が客付不動産会社にある場合、本来は客付不動産会社が借主に賠償すべきですが(ホテル代の支払い等)、まともに約束を守れない客付不動産会社にプロとしての責任の取り方を求めるのは現実的ではなく、借主とはこれからお付き合いしていく上であまりに幸先の悪いスタートも避けたいので恩を売るのも一つの手です。

テンプレート化


それで、この一連の流れはほぼすべての契約で共通となります。イレギュラーがない訳ではありませんが、イレギュラーのほとんどは単に意識の低さ、甘えから生じます。

なので、一連の手続きは合理化の上でバリエーションを最小限にし、段階ごとに送るメールは固有名詞や数字以外の部分はテンプレート化すべきです。

自主管理して間もないうちにテンプレートを完成させることはさすがに無理だと思いますが、そこを意識して業務にあたりましょう。

 
客付会社の担当者の中には、デキる営業マンで忙しいアピール、業務が多くあっぷあっぷなフリ、もしくは持論をまくしたてる等で自分のペースに巻き込もうとする人がいますが、それに飲まれるとミスと余計な業務が増え、すべての入居者にフェアな対応が崩れてしまいます。

それを避ける上でもテンプレートメールで対応すべきです。

テンプレートは業務の省力化のみならずミスの防止、サービスクオリティーを一様に保つためにも重要なのです。

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shiro-shita

仙台在住の”不動産コンサルタント” 就職超氷河期世代かつリーマンショックの直撃を受けたりと時代に翻弄され不動産会社を転々。苦く、しょっぱい経験に裏打ちされた不動産スキルはある意味ではリアルそのもの。

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