私は就職超氷河期世代のなので就職は狭き門、やっとの思いでくぐり抜けてもブラック企業でのサバイバルが待っていたのですが、
今の世の中のトレンドは完全に働き手不足です。
巷で進められている“働き方改革”は今後増加しない労働人口を有効活用するために勤務制度を改めたり、生産性を上げるために無駄な業務慣習をなくしていこうとするものですし、入管法の改正は外国人労働者をもっと活用するためのものです。
ただし、そんな世の中のトレンドからも不動産業界は取り残されている感があります。
不動産業界の雇用慣行は他の業界と一線を画し独自の風習があるので同一視できないというか、すでに遅きに逸しているというか…。
不動産業界での不毛な労働環境
地元の不動産会社の実態 意外にスゴイのだが…
不動産業者数は全国で12万を超えるそうです。
銀行は信金を含めても400社程度、保険は生命保険、損害保険合わせて100社程度ですから桁が違う訳です。
その中でいわゆる三井不動産や三菱地所といった大手は一握りで、ほとんどは小規模企業です。
小規模企業だから世の中で雇用トレンドから取り残されているのかと言うと、そうとばかりも言えません。
実は、小規模でも売上は高い会社が結構あります。
例えば宮城県内の企業で見れば、東北電力や七十七銀行、カメイといった別格ゾーンを除くと、年の売上額が30億をこえているというのは相当少ないレベルですが、その中に不動産会社が何社か含まれます。
地域一番店的にいい立地に店を構え、従業員が多く、広告も盛んに行っているところもありますが、業界の人以外はほとんど知らないような会社もあります。
そういった会社はどのようにして売上を作るかというと、
主に転売です。
3億で仕入れたものをリフォームして4億で売る、売上は4億なので、年に7~8回行えば30億になります。
転売の肝は売り物件の情報を収集し、転売先を見つけるネットワークと、物件の潜在力を見抜きバリューアップするノウハウですが、それらのネットワークやノウハウは会社的に蓄積されているものを従業員がチームを組んで作業して行うというより、その会社の中核となる人物の個人的な資質であることがほとんどです。
不動産会社はあくまでも個人商店
普通の会社、例えば宮城県内で「萩の月」とかを作っている会社だと、本社以外にも大きな工場やたくさんの販売店があり、従業員は持ち場持ち場で毎日自分の仕事があり、それら全てで会社が成り立ちますが、
そういった不動産会社だと、会社は空中店舗一室で従業員は社長の親族と数名程度、従業員は主に社長のフォローと副次的に発生した業務を行っている程度だったりします。
しかも、従業員がそのフォロー業務を日々行っても、将来、会社の中核となって転売を行うことは稀です。
業務が完全に属人化されて承継されないのです。
基本的にファミリー企業なので会社を継ぐのは社長の息子で、あまりに力のある従業員がいるとかえってスムーズな事業承継が妨げられるということもありますが、そもそも、そのような業務のノウハウを社内に蓄積して従業員全体で活用することができないのです。
というか、社長の息子すら習得することはほとんどできず、社長が頑張って基盤を築き、それで貸ビルや賃貸マンションを所有し、資産管理会社に業態変更して息子に譲り渡すケースが多いです。
不動産のスペシャリストはどのようにして育成されるか?
では、中核となる業務をどうすればできるようになるのでしょうか。
もちろんそれは人それぞれ様々な環境下で培いますが、そういった方の経歴で一番多いのはそこそこ大きい不動産会社の営業職出身です。
三井不動産や三菱地所といった超王手だとあまりエグイ営業もしないでしょうし、中途退職するより定年まで勤める方がメリットが大きいのであまりいませんが、準大手クラスや新興デベロッパーあたりだとイケイケ営業しているところが今でも結構ありますし、定年退職なんて都市伝説とばかりにそこをステップに転職、独立します。
昔の大京とか東急リバブル、在仙企業だとサンシティといった会社に入り、同期があまりの過酷さに脱落していく中、営業成績を出し続けた闘将が人脈とノウハウを吸収し、金主を見つけて独立したり、他の会社の社長の片腕として引っ張られます。
もちろんそれは努力と適性と運を味方につけた一部の人です。
確かに多くの人材を輩出した上記のような会社もありますが、教育プログラムとして優れていたというより、もともと商才があったか、過酷な状況の中で潜在能力が突然変異的に開花したといった方が実情に近いように思えます。
不動産会社での普通の働き方は…
よくある不動産会社での働き方は2つあって、
1つは、準大手みたいな会社に入り営業をする。営業成績によっては好待遇でスキルアップや独立といったチャンスもあるが、過酷な日々で途中リタイア率が高い。
もう1つは、小規模企業や大手でも賃貸管理メインの会社でルーチンワークや上司のフォローを行う。業務は決して厳しくないが給与は上がりにくく、スキルアップもしにくい。
(本当の大手不動産会社に正社員として勤務するのは割合的に少ないので除外)
まともな新卒学生であればどちらも選びません。営業するのは過酷な上に確実性はなく、もう片方はいわゆる負け組です。
他業界にいた人が中途採用で準大手に入り、あまりの過酷さにリタイアして負け組に移行するというのが一般的な不動産業界のルートです。
中途半端に従業員を育てても他社のアシストをするだけ
不動産会社が従業員をトレーニングしないのにはもう一つ理由があります。
不動産会社はその会社独自の商材やサービスというものがほとんどなく、あってもすぐ他社が追従するので、どの会社もだいたい同じようなことをしています。
なので、ある会社で身につけたスキルはそのまま別の会社で使えます。
不動産会社にとって困るのはせっかく育てた従業員が他社に転職することです。
しかも、その場合は顧客まで持っていかれます。
そうなるともともと少ない人員に大きな穴があき、これまでの教育投資がすべて無駄になります。
そんな馬鹿を見るくらいなら従業員のトレーニングは控えめにし、他社が育てた人材を引き抜くことを考える方が利口です。
これは不動産業界だけの問題?
身も蓋もない話となりましたが、不動産会社の雇用・労働の実態とはこんなものです。
ただし、この不毛な環境はこれまでは不動産会社特有と言ってよかったのかもしれませんが、
最近は多くの業界にこの不毛な波が押し寄せているように感じます。
その話は次回したいと思います。
shiro-shita
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