大家・管理者のための入居審査の勘所

不動産知識・テクニック

大家・管理者のための入居審査の勘所

賃貸入居審査では財力より人となりを重視すべきなのが綺麗事ではないワケ

かつての不動産会社では、

入居希望者の一挙手一投足を眼光鋭いベテラン担当者が舐めるように見たものでした。

そう。

不動産会社に足を踏み入れた瞬間から入居審査は始まっていたのです。

 
 
しかし、近年はそんな鷹の目の担当者も定年退職し、何よりも家賃保証会社が一般的になったことで、不動産会社自体が積極的に入居審査をすることはほとんどなくなりました。

 
ただし、当たり前ですが保証会社で審査するのは入居者の滞納リスクだけです。入居者が定期的な収入のある勤め人であればよっぽどのことがなければ審査否決する理由がありません。

 
対して入居者によって起こりうるリスクは滞納だけではありません。

マナー違反、部屋の棄損、クレーマー、事件事故、孤独死、自殺etc…

 
入居審査に力を入れたからといってそのような事態を完璧に防ぐことはできませんし、「クレーマー、それが何?」みたいな鉄のメンタルの人なら無関係のようですが、ノーガードで受け入れていると不動産賃貸ビジネスの根幹を揺るがしかねない爆弾となるので、ある程度の水際対策はやはり必要なのではないかと思います。

収入や保証人よりも重要なポイントとは

水際対策といっても家賃保証は付けるでしょうから滞納リスクを独自に審査するのは無駄なようですが、

実はクレーマーや事件事故を起こす問題入居者は滞納を起こす人と似たパーソナリティーです。

家賃保証会社の仕事の多くはごく数%しかいない滞納者に割かれ、しかもそういった人は貧しくとも清く生きていることは稀で、約束を守らない、常識が通用しない、支離滅裂な論理で自己正当化する、そんなタイプが多いです。

むしろ、清貧の方は人様に迷惑を掛けられないと他のものを犠牲にして家賃を払ってくれたりします。

 
要は肝心なのは、入居者の収入や連帯保証人の有無といったことより人間性なのです。人間性をチェックすることが問題入居者対策となり、結果的に滞納も防ぐことになります。
(人柄のいい無職の独居老人が入居したらいずれ認知が進んで問題入居者になることもありますが)

では、人間性はどうやってチェックすべきでしょうか?

私なりのチェックポイント

人間性のチェックは、あなたが大家や管理者であれば、一般的にどうかよりもあなたと相性がどうかが重要なので、基本的には個人の感覚でいいとは思いますが、参考までに私なりの考えを記載します。

私は下記のようなタイプを要注意としています。

NGワードを口にする

審査に追加資料が必要とか、審査結果が思わしくないといったネガティブな条件を伝えた際に、

「これまで何度も不動産を契約しているけどこんな面倒なこと言われたのはじめて!」

みたいなことを言ってきたら、私はその人をNGにしています。

 
ネガティブなことを言われて相手もネガティブな反応をするのは当たり前ではありますが、この返答は度が過ぎています。

何故か。

あくまでもそれまでの対応においてこちら側に落ち度がなく、相手と関係が悪化していないことが前提ではありますが、

①自分の方が上だと思っている
②カッとなりやすかったり色んなことが雑な人。そういうタイプは不動産を借りて使うのに不向き
③怒ったのは指摘されたことに身に覚えがあり痛いところをつかれた。人は痛いところを突かれると怒りやすい

少なくとも1つは当てはまっています。

本当に社会的ステータスが高かったり、商談上借りる側のパワーバランスが強いときもありますが、それで賃貸条件が借主優位になることはあっても、全てのやり取りに気を遣わなければならなかったり、入居後の対応に他の入居者と差をつけるべきではありません。

VIP待遇でなければ気が済まない人は不動産を借りるのには向かないのです。購入して使用すべきでしょう。

 
なお、本当に社会的ステータスが高い人は心に余裕があるので案外怒りにくく、また、予想外の返答があった場合に通常示す反応は”怒り”ではなく”驚き”なので、NGワードを口にするのは③が多いです。

私は過去の失敗はある意味でその人の財産でそれを糧に進歩できると信じていますが、人間性に問題のある人に限っては残念ながら同じ過ちを繰り返します。

痛いところを突かれて謙虚になるのではなく逆に怒るような人は人間性に問題があります。いずれ時間の問題で同じ過ちを犯すでしょう。

演出が過剰

どこかに弱みを持つ人は自己演出で隠そうとする傾向があります。

車、肩書き、経歴、服装、アクセサリー、有名人と親しいetc・・・

もちろん本当に社会的ステータスが高かったりお金持ちもいますが、どこかチグハグさを感じる人は注意です。

外車に乗っていて、肩書きは社長、ビッグプロジェクトをとうとうと語り、スマホケースにじゃらじゃらアクセサリー

でも、その会社のHPはなく、名刺の紙質はペラペラ、メールアドレスはフリーメール、メールの文章は拙く、スキャナを持ってなくコンビニからFAXを送る。

自分は怪しい者だと宣言しているようなものです。

不人気物件に問い合わせてくる

物件が古かったり、立地が悪かったりして不人気物件だと借り手市場になりますが、そういった物件には逆に普通の物件を借りることができない人から問い合わせが来やすいので注意しなければなりません。

ただ、わかっていても問い合わせがあると、つい入居してもらいたい一心で相手に対しシタ手に出てしまいがちです。

そんなこちらの対応に図に乗ってくる人はさらに注意が必要です。

人間性に問題がある人はマウンティング癖があり自分の有利不利に敏感です。

マウンティングスイッチが入ると問題の本質よりも自分の虚栄心を満たすことが最優先され、思いも寄らぬポイントでブチ切れたり、呼び付けて謝罪を要求したり自分の有利さを誇示しようとします。

主体性がない

部屋を借りるのに誰かのサポートを必要とするのは致し方ないことだとは思いますがそれが過剰な人がいます。

物件の情報集めも、不動産会社への問い合わせも、申込書への記入もイチイチ誰かに確認するような人です。

お金を出すのが別の人といった事情があることも多いですが、それでも契約者は自分で、そこに住むのも自分です。

入居後には何かわからないことがあると、自分で調べたり、試行錯誤することなく、およそ関係ないことまで管理者に聞いてくることでしょう。

 
現代はその人に悪意がなければ、その人の能力不足を周囲の人は許容することが求められる社会です。ただし、それで世の中が成り立つにはその足りない能力を誰かが埋める必要がありますが、その誰かになるには覚悟、準備、能力、労力が必要で、たまたまその場に出くわした人に押し付けるのは正しい社会の在り方ではありませんし、仮に不動産管理者が担うのであれば、他の入居者とサービスに差をつける不公平さの問題も生じます。

できないことを引き受けて後に問題が起こるよりは、心を鬼にして最初から引き受けない選択をした方が無難です。

 
また、違った主体性のなさですが、パトロンらしき人の影がちらつく人もいます。

事業用物件を女性が借りるケースではよくあり、もちろん身近にサポートしてくれる人がいるのはいいことで、それがビジネス上のパートナーシップだろうが肉体的パートナーシップだろうが個人的には気にしません。

ただし、本人がパトロンへの伝達役に過ぎないときは、重要な情報が伝わらなかったり、ニュアンスが変わったりしてかなりの確率で問題が生じます。

パトロンありきで始めようとする人は、他力本願で自分がリスクを負っている感覚に乏しいので、軽く捉えて吟味せずに前に進める傾向があります。そして、いざ問題が発生した時は、説明を聞いていたのにパトロンに伝えなかったとなると自分の立場が危ういので、不動産会社や大家を悪者にしがちです。

パトロンは彼女の前でかっこつけたい心理も働きガチギレで怒鳴り込んできて修羅場に…

 
いずれにせよ主体性ない人は要注意です。

 
 
それと、当然ながら約束を守らない、言っていることがあっぺとっぺもNGです。

そういった人は多かれ少なかれ精神疾患を抱えていて本人の意思ではどうしようもなかったりしますが、だからといって不動産会社でサポートできるものではありません。

嘘つく人ももちろんよくありませんが、転職したてで勤続期間を少し盛ったり、見込みの年収を少し高くしたりするのはかわいいものです。その程度の差は入居審査に何も影響しませんが、むしろその小物っぷりなら入居後に大それた問題は起こさないでしょう。

だって不動産賃貸業は基本コンサバなビジネスだから

私が思う不動産賃貸業における水際対策は、ダメ人間というよりも危険分子をより分けるべきだと思います。

危険分子は攻撃力が高いことが多く、それが万が一にもこちらに向かってくることを防がなければなりません。
 

なお、危険分子は持ち前の攻撃力で成功する人も多く、それは長所であるとも言えます。つまり諸刃の剣なのです。

将来に投資するなら凡庸な善人よりダークホース危険分子の方が面白かったりしますが、不動産賃貸業の入居者としては100%凡庸な善人が正解です。
 

だから、入居審査が否決されたからといっても、能力がないとか、社会的ステータスが低いとかってことではありません。

多分、その方がお互いにとってハッピーですよって程度に受け止めていただければと思います。

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shiro-shita

仙台在住の”不動産コンサルタント” 就職超氷河期世代かつリーマンショックの直撃を受けたりと時代に翻弄され不動産会社を転々。苦く、しょっぱい経験に裏打ちされた不動産スキルはある意味ではリアルそのもの。

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