貸し手

アパート・マンション自主管理マニュアル⑦「ビルメンテナンス」

第7回は共用部のメンテナンスについてです。

アパート・マンション自主管理マニュアル①:入居者からの連絡受付体制
アパート・マンション自主管理マニュアル②:入居者クレーム対応
アパート・マンション自主管理マニュアル③:非常時体制
アパート・マンション自主管理マニュアル④:入金管理
アパート・マンション自主管理マニュアル⑤:管理業務支援ツール
アパート・マンション自主管理マニュアル⑥:滞納者への督促・回収

ビルメンテナンスの選別

まずは物件ごとに下記を選別しましょう。

専門家しかできない法定点検

エレベーターや一定規模以上の消防設備点検、特殊建築物調査などは有資格者に限定されています。

ご自身が有資格者であれば別ですが、基本、外注せざるをえないでしょう。

専門家以外でも可能な法定点検

アパートや小規模なマンションといった一定基準以下の建物で消防設備が消火器と誘導標識(蓄光式誘導灯は除く)だけであれば無資格者でも点検可能です。

無資格者が消火器を点検する場合、製造から5年超のものは対象外なので、5年経過したら買い替える必要があります。

法律上は半年に一度点検を行って、3年に一度管轄の消防署に報告することになっています。

 
 
「法定点検?そんなことやっていないし、消防署からも通知が来てないからうちは対象外のはず」
と思っている方が多いですが、戸建は別にして集合住宅であれば報告の義務はあります。

ただやっていないだけなのだと思います。実際のところ、消防署が積極的に指摘をしてこないこともあり、市町村にもよりますが、実施率は半分以下です。

不動産管理会社がかかわっているケースでも行っていないことが多々あります。管理会社の従業員が義務であることを知らなかったり、知っていても律儀にルールを守って報告すると費用・労力が掛かってやぶ蛇だから指摘されるまで放っておくというケースもあります。

無資格者でもできる場合、外注しても年あたり数万円ではありますが、自分でするか、外注するか、意図的に無視するか、判断する必要があります。

法的義務はないが運営上必要な項目

必ず実施すべきなのは定期清掃です。

敷地内に不法投棄されたゴミ、チラシが散乱した集合ポスト、汚れで黒ずんだ共用廊下、くもの巣だらけの照明、それらは無意識レベルで人の心に作用し、入居検討者には拒否感を生じさせ、既入居者には他者への寛容さを逸失させるので、定期的な処置が必要です。

外注と内製化のどちらがいいかは費用や労力を鑑みて判断しますが、自分で行うことはプラスアルファの効果があります。

・自ずと物件のチェックになり、不具合等の早期発見につながる
・清掃スキルのレベルアップ
・物件への愛着が増す

 
外注する場合ですが、最近は専門業者に依頼するだけではなく、個人で清掃を請け負う人や、そういった方を募るマッチングサイトもありますので選択肢に加えるといいと思います。

 
内製化する場合、用具の準備が必要です。

例として
・ほうき(共用廊下の天井まで届く伸縮するもの)
・火ばさみ
・チリトリ
・ビニール袋
・バケツ
・雑巾
・モップ
・スクレーパー
・水を入れたペットボトル(共用水道がない場合)
・除草剤
・クモ、ハチ用エアゾールスプレー
・ドライバー
・タッチアップ用塗料
・球切れ交換用電球、グロー球
・脚立

もちろん、物件によって異なります。

 
これまで管理会社やその外注先が定期清掃を行っていた物件であっても、そういった業者の清掃は型通りのことしかやらないので案外汚れがたまっているものです。もちろん自ら気合を入れてやってもいいですが、一回だけ専門業者に依頼するのも手です。

また、高所だったり自分で実施が難しくて、そんなに頻繁にやる必要がない箇所は、どこかを修繕する際に併せて業者に依頼するという方法もあります。

清掃は慣れてくると効率的な順序がわかり、磨かれたスキルは家庭でも喜ばれること請け合いです。

物件が違法状態にないかチェック

ビルメンテナンスではありませんが、本来は避難経路にあたる部分をいつの間にか塞いでいるということがあります。

入居者が廊下や階段に勝手に物を置くケースが多いですが、オーナーが敷地に駐車場増台したらそこは避難経路だったということもあります。

後者は明らかにオーナーの落ち度ですが、駐車場を使用する前提で入居したのであればどけてくれとは言いにくいでしょう。とはいえ万が一の事態となればオーナーの責任は過大です。違法だと知らなかったと言っても事業者なので責任は免れません。

小規模なアパートは特殊建築物調査の対象外で、そのような違法状態が発見されにくいので注意が必要です。基本的にアパート新築時に敷地が単に余るような設計はまず行いません。本当に余れば最初から駐車場にします。そうなっていないということは法律上そうせざるをえなかった可能性が高いと考えるべきです。

ビルメンの適性


ビルメンテナンスのほとんどは誰でもできる作業です。不動産管理会社が請け負う場合もほとんど末端の従業員もしくは下請け業者が行っています。

末端とはいえ人が動く以上は一人一回あたり数千円~万円の費用が掛かり、それはチリツモのアパート経営にとっては馬鹿にならない金額なので、物件が近場にあるならですが、建物メンテナンスは自主管理に切り替えやすく、そのメリットを享受しやすい項目と言えます。

資格のある専門家しかできない項目もありますが、実は資格があれば(責任の重さはあっても)作業自体は難しくないものも多いです。いっそのこと資格の取得も目指してみるのも手かもしれません。

 
ただし、生産性の高いオーナーであれば、誰がやっても差が出にくいこれらの業務を自らが行うのはかえって非効率ですし、差が出にくいといっても性格的な向き不向きはあります。

自分が向いていないと思うなら、管理会社に依頼するのではなく、直接ビルメンテナンス会社に依頼すればいいと思います。それでも管理会社の中抜き分は費用を節約できます。

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shiro-shita

仙台在住の”不動産コンサルタント” 就職超氷河期世代かつリーマンショックの直撃を受けたりと時代に翻弄され不動産会社を転々。苦く、しょっぱい経験に裏打ちされた不動産スキルはある意味ではリアルそのもの。

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