売り手自らが不動産を主体的に売却するための「現状分析」の仕方

不動産知識・テクニック

売り手自らが不動産を主体的に売却するための「現状分析」の仕方

不動産売却のための3C分析+1

これまで不動産の売却は不動産仲介会社に、査定、販売、契約、引渡し等を全面的に依頼するのが一般的でしたが、今ではインターネットに情報が溢れているので一般の人でもやってできないものではありません。

それでも、保険的意味合いも含めて仲介者に依頼した方が無難ということもあるでしょうが、残念ながら一部の仲介者には顧客よりも自分の利益を優先するモラルが低い者もいるので、売り手は仲介者に依頼する場合もすべて丸投げではなく、不動産売却についてリテラシーを持ち、仲介者を見極め、業務を監視することが望ましいと言えます。

今回はそんな現代版売り手のための不動産売却の心得について記載します。

知識よりも考え方にフォーカスした内容になりますので、個別的な知識については別途過去記事等を参照していただければと思います。

【過去の記事】不動産売却のチェックポイント1 権利証・登記識別情報通知
(※全部で15回あります)

まず、売却の心構え

不動産の売却を決断するまでには様々な思いがあると思います。

これまでの不動産との関わり、

売却に対する親族の反応、

売却後の自分の生き方、

 
不動産は単なる金融資産と異なり思い入れが深いことが多く、不動産売却は売り手にとっては人生の次のステージに移行するタイミングだったりしますし、不動産は個人名義であっても一族の資産という価値観が根強く、関係者から売却の同意はかろうじて得たものの渋々でいつ翻意するかわからないということもあります。

 
ただし、このような売り手の思い入れや事情といったものはキツい言い方にはなりますが、買い手には関係がないことで、買い手としてはインターネットに売却物件として掲載されていれば一様に商品だと思います。

売り手が主体的に実効性のある売却を行いたいのであれば、このような思い入れや事情は別の次元で考え(無視するのではなく)客観的に認識する必要があります。

 
一般に売り手は物件への思い入れが強すぎることでバイアスが掛かることが知られています。
【参考】不動産の売り手はなぜ折れないか? 不動産買い手の最適化戦略③

保有効果により、物件を過剰評価する余り有望な買い手を逃したり、売却はできても取引関係者にあまりに偉そうな売り手だっと思われるかもしれません。

客観的に認識できるかどうか、実はここが最も重要な分かれ目であり、有効な売却戦略を立案できるかを大きく左右します。
(仲介者にとっては売り手のそのような思い入れや事情を受け止められるかが信頼関係を構築できるかを大きく左右します)

現状分析

心構えができたら具体的な売却手続きの検討に入りますが、次に行うべくは販売戦略を立てるための現状分析です。

マーケティングで用いられる3C分析を準用して記載します。

【分析1】Companyその1「自分自身」

売り手自身を巡る状況を確認します。

・抵当権や差押等の担保権者がいるか
・売却期間中の生活や維持管理費の負担からして期間的リミットはあるか
・売却の目的や売却に掛かる経費からして売却価格下限はいくらか(いくら以下だと売却の意味をなさない、もしくはそもそも売却不能)
・時間的余裕や不動産についての知識を鑑みどこまで主体的に関われるか、またどこからはサポートが必要か

月末に大きな支払いを予定していてそれに売却代金を当て込むとか、奇跡的な高値で売れないと成り立たないような綱渡りな売却プラン、もしくは、ローン完済金や税金を考慮しないようなあまりに無計画な売却プランでは実効性に疑問符が付きます。

 
特に住宅ローン返済中の物件を売却するのであれば注意が必要です。売却代金が残債を下回る際は別途差額を用意しない限り売却することはできません。完済できるにしても銀行に今日売ったからでは通用せず、事前にその旨を申し出て日程や返済方法をすり合わせないとなりません。

売却前に別の物件をローンで購入して住み替えるのであれば、新たなローンを組むハードルは高く、仮にローンを組めても売れるまでは新居との2重払いになります。

一旦、今のローンを完済した上で新たにローンを組む場合、先に買い手に物件を引き渡さないとならないので一時仮住まいが必要で、そのために賃貸を借りるとなるとそれなりの出費になります。

 
また、売買契約書の作成や引き渡しの段取りはプロの仲介者に依頼しようとすると、基本それだけで仲介手数料丸々請求されます(中には弊社のように値段交渉に応じてくれるところもありますが)。それなら、最初っから全て依頼した方がいいと思うかもしれませんが、最初に記載したようにモラルの低い仲介者に引っかからないようにすることが目的なので、最終的に仲介者に依頼する場合でもこのような一連のプロセスを踏むことは大切です。

【分析2】Companyその2「売却基準価格・物件特性」

売却基準価格を把握するためにはいわゆる査定が必要です。査定というと専門知識がないとできないように思うかもしれませんが、ググれば査定のやり方なんて無数に出てくるはずです。計算はDCF法を除き算数がわかれば大丈夫です。

ここでは簡単に記載します。

【土地】
周辺で取引された類似事例の1平方メートル当たりの土地価格 × 売却物件の土地の面積 × 調整率%

【戸建】
((周辺で取引された類似事例の1平方メートル当たりの土地価格 ×売却不動産の土地面積) + (建物面積 × 再調達価格15万円 × 現価率(1-(築年数/22)×0.9)))× 調整率%

※類似事例の土地価格は戸建売却事例のものから建物価格相当分を差し引いて求める
※再調達価格や現価率は木造のあくまでも一例でケースバイケース。築22年以上は現価率10%。

【マンション】
棟内で取引された類似事例の専有面積1平方メートル当たりの価格 × 売却物件の専有面積 × 調整率%

 
調整率は物件特性を把握し設定します。

土地なら類似事例と比較して前面道路が広いか、日当たりはどうか、マンションなら階数はどうか、室内状況はどうかと物件の強み弱みを価格に反映していきます。事例と比較しながら物件が劣っていれば100%から下げ、上回っていれば上げていきます。

あまりに雑に感じるかもしれませんが、仲介者がやる査定も計算自体はこんなもんです。経験と勘の裏付けがあるかどうかの違いで、それはどの比較事例を採用するか、調整率をどう設定するかに反映されます。

算出された価格では心もとなければたくさんの事例を用いて何通りも算出してみましょう。何となく確からしい気持ちになってくるはずです。

【分析3】Customer「想定顧客」

物件の買い手はどんな人が予想されるでしょうか。

間取が4LDKであれば、周辺の賃貸住宅に住んでいる20〜30歳代の子供がいる夫婦が向いているかもしれません。その場合は購入資金は住宅ローンを利用することになるでしょうし、学校まで通いやすい距離かどうか等も判断要素としてウェイトが高くなるでしょう。

また、300坪の土地となると一般の方が住宅用地として購入するというより、工場や店舗用地、マンション&宅地分譲用地といった事業用目的が多くなり、買い手にとってはその事業の採算性が最重要です。

 
物件によって想定される買い手は千差万別であり、想定顧客ゾーンの設定が適切に行われないと物件のどこをどうアピールするかといった戦略が立てられません。

 
また、例えば、

昭和後期に造成された郊外の住宅団地にある築40年の豪邸

平成バブル期に開発されたリゾート地にある温泉付き分譲マンション100㎡

とかは、当初は付加価値が高い物件だったのでしょうが今ではチグハグで顧客層が狭い物件です。住まいにステータスを求めるお金持ちは中古で住まいを求める感覚が低く、かといって庶民には高い維持費がネックとなって例え物件価格が相当安くても現実的には購入に踏み切れません。

その場合は売買価格として妥当な額であったとしても顧客の分母が少ないので販売が長期に及ぶ覚悟が必要です。

 
顧客数と価格の関係は物件によって異なるものの、通常は、顧客層の厚い物件は顧客間の競争が生じ多少価格が高くても決まりやすく、価格を下げた場合の効果も高い傾向にあり、顧客層が薄いと顧客間に競争がなく、値下げの効果も低いです。

【分析4】Competitor「競合物件」

物件の販売状況を占う上では類似している販売中物件(競合物件)の分析が重要です。

売り手の物件と競合物件のどちらが商品性が高いか、もしくはお得か、競合物件の方が商品性が低い場合、それでも競合物件は買い手が付くのか、競合物件の方が商品性が高い場合、それでも競合物件は買い手が付かないのか、

そのような視点で競合物件をウォッチします。

 
また、競合物件の数も市場を読み解く上での指標となります。

ただし、単純に競合が多ければ販売しづらいという訳ではありません。

【競合が多い】
①需要が多いため供給も増える…市場が確立しており予測しやすい
②需要は低いが供給が多い…過去にはそれなりのニーズがあり市場にストックがあるが現在は不人気な物件。過去の成約データをさらに下回る可能性が高い

【競合が少ない】
①需要が供給を上回る…好立地等の希少物件であり売り手市場
②需要がほとんどないため供給もされない…辺境地等の物件、そもそも市場がなく予測不能だが期待はできない。

辺境地等だと顧客層が薄いのは確かですが、究極的には買い手は一人いればいいので、物件を市場に出せば薄いなりに顧客が反応し一本釣りできることもありますし、全くもってピクリともしないということもあります。

 
競合物件の販売状況、市場の傾向を掴むのには市場ウォッチをそれなりの期間行った上で、得られたデータを知識・経験・勘で分析するので決して簡単ではありませんが、この分析を行わないとどういう相手とどこで競うのかわからないということになります。現代的な不動産売却においては重要なフェーズです。

 
 
と、ここまでが現状分析になります。

次回は現状分析によって得られた情報をもとに販売戦略を策定していきます。
(次回に続く)

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shiro-shita

仙台在住の”不動産コンサルタント” 就職超氷河期世代かつリーマンショックの直撃を受けたりと時代に翻弄され不動産会社を転々。苦く、しょっぱい経験に裏打ちされた不動産スキルはある意味ではリアルそのもの。

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