これから仲介者が担うべき 役割についての持論

不動産知識・テクニック

これから仲介者が担うべき役割についての持論

最もふさわしい人が自然と買い手となる市場構造を実現すべき!

前回の記事で不動産仲介者はマッチングに注力すべき!と記載しました。

【前回のブログ】不動産の仲介ってどんな仕事?仲介って必要??

不動産情報のオンライン化がほぼ達成されポータルサイトで誰でも簡単に不動産を探せる時代に噴飯ものと思うでしょう。

多くの不動産会社が将来に向け様々な投資や組織改革を行なっていますが、マッチングに注力というのは聞いたことがありません。

 
ただし、私はマッチングといっても、仲介者はローラーで飛込営業やテレアポして顧客を見つけだせと言っているのではなく、

最もふさわしい人が自然に買い手となるような市場構造・環境を構築するのが望ましいと考えています。

そして、そのような価値観を発信し、推進に向けたアイデアを出し、具体的に取り組んでいくことで、徐々に世の中に浸透し、いずれは市場構造・環境が変革されることを願っています。

適切なマッチングは社会経済の発展に不可欠

私はそのような最もふさわしい人が自然と買い手となるようなマッチングには社会的な要請があると考えます。

 
不動産は有限な資産であり埋め立てでもしない限りは新たにできません。単なる所有欲から購入するという人ではなく、最も有効活用できる人が購入すべきだと思います。

最も有効活用するということは、最も社会経済に貢献すると同義語であり、景気、雇用、地域の発展を促すことになりますし、理論上は最有効活用プランにおいて不動産の買値は最大化します。

選りすぐりの有効活用プランを立ててそれを実行する人が購入するのが、売り手、世の中にとって望ましいことであり、買い手としてもその過程で活用プランが磨かれ、それを実現する場が与えられるのですから望ましいことです。

 
仲介者はそのような最有効活用者にマッチングするよう努め、そのような取引が自然と行われるよう市場メカニズムを整えるべきです。

 
でも、今でも最も高い価格を出した人が買っているので実質的にそのようになっているのでは?と思うでしょう。

 
現状では足りていないものがあります。

・合理的判断ができる透明な市場

・合理的判断を助ける知識の共有

それらが不十分です。

合理的判断ができる透明な市場

透明な市場とは、すべての取引関係者がフェアで、情報に非対称性がなく、オープンな市場のことです。

不動産市場はだいぶ透明性を増してはきましたが、それでも情報が不十分なことで非合理的な判断を行う取引関係者がいます。

 
例えば、仲介者に依頼して土地を売却するケースを考えてみます。

依頼を受けた仲介者は一般公開前に建売業者に紹介するケースが多いです。

一般公開前の情報の方が建売業者は買いやすく(土地の売価が公開された後に建売業者が購入し建売住宅を販売すると、建売業者がいくら抜いているか想像がつく)、建売業者が購入すれば建売住宅を販売する際に仲介者がもう一度商売できるメリットがあるからです。

ただし、一般的に建売業者の買値は相場を下回る傾向にあり、結果的に建売業者用の検討期間にあてて非公開にした時期は機会損失に終わることが多くなります。

また、相場を下回る価格でも建売業者から購入希望がでれば、仲介者としては取引を纏めることに強いインセンティブが働き、さもその価格が相場価格であるかのように説得を図ることがあります。

 
そのような際に、売り手が自身がどのような販売状況であるか、物件ページにどれだけのアクセスがあり、商談中が何件あるかがタイムリーに把握できれば物件の市場評価がわかり、今後の販売戦略に役立つはずです。ましてやまだ情報が公開されていないなんてことは起きません。

さらに、すべての取引の価格や物件特性が公開されていれば仲介者の説明に乗せられて相場を下回る価格で売却する事態を防ぐこともできます。

売り手の利益を守るだけではなく、本当に物件を欲している買い手に情報が滞ることも避けられます。

 
なお、このような仲介者の不誠実な対応はモラルが特別低いからというより、不誠実なことで得られるインセンティブがリスクを上回るから生じます。

建売業者への紹介期間に売り手からサイトに掲載されていないと問い合わせがあっても、

今は写真や図面を準備している、

とか、

売り手から相場はもっと高いと反論されても、

面積が大きい土地の場合は購入単価が下がる、

とか、

いくらでも理由をこじつけられますが、

売り手自らが販売状況や相場を簡単に確認できれば言い逃れができず、不誠実であることのリスクはインセンティブを上回ることになります。

 
もう一例、マンション用地の取引について考えてみます。

駅近の300坪みたいな土地であればデベロッパーの争奪戦で半入札状態となります。デベロッパーとしては建設する分譲マンションをどれだけ高く売れるかによって買値の上限が決まるのですが、

蓋を開けてみると詐欺的な販売手法を取る投資マンションデベロッパーが競り落とすというケースが結構あります。

価値が低いものを高いと見せかけて売るのですから利鞘が大きく、土地を高く購入しても採算が合います。情報力がなく、非合理的な判断に陥る投資マンションの転買者がいることで成り立つビジネスです。

 
しかし、転買者がその投資マンションの真の相場価格や相場賃料を簡単に確認できればそんなビジネスは成り立たなくなります。

しかも、それならマンション用地購入で競合していた他のデベロッパーも戦略を変更できます。これまではそんな詐欺的デベロッパーと競う前提でまともなデベロッパーも無理目なプランを元に土地価格を算出していたのを、最も価値のあるマンションを作ることに集中できます。

結果的に適切な商品性のマンションが販売されることになり世の中のためになります。

合理的判断を助ける知識の共有

市場が透明で取引関係者にフェアでヨーイドンでスタートするのであれば(早い者勝ちではなく一定期間同時並行的に商談するにしても)予めノウハウが蓄積している買い手が有利です。

ノウハウを蓄積させる努力が報われる市場メカニズムにはすべきですが、一部のプロがノウハウを囲い込んだり、一般顧客は一々ゼロからスタートしなければならないのであれば、非効率であり健全な市場が形成の足枷となりかねません。

 
先程のマンション用地を10社が検討した場合、通常は10社とも図面を引いて工事見積も取っていますが、うち9社の図面作成、工事見積の手間は無駄となり、依頼者の秘匿やノウハウ流出を防ぐ観点から世に出ず闇に葬り去られます。

 
私は関係者の秘匿処置をした上で図面や見積を共有を図っていくのが望ましいと思います。

共有を了承すれば他社が作成したものを利用できるシステムにすればお互いにメリットがあります。新たなプロジェクトに着手するにあたり類似案件の様々なケースを参照できれば大幅な省力化です。

 
また、そのように共有を承諾して様々なケースを参照している人は有望な見込客ということになり、その中には、過去のケースの参照だけではなく、新規計画に対しての提案を希望する人もいるでしょう。

そういった人に魅力的なプランを競って提案するのは設計者、工事業社にとって最も本質的な業務であるはずです。

イメージ広告やモデルルームに大金を注ぎ込んで集客するのとは別の営業チャンネルになるかもしれません。

副次的効果もある

このように最有効活用による不動産取得が主流になり、競争力の高いプロジェクトの導入割合が増えれば、

逆に、競争力に劣る活用方法が取られている不動産の価値は相対的に低下し、

自力での再興が合理的でないと判断されれば、その物件は売り物として不動産売買市場に供給され、新たなビジネスチャンスの創出や世代交代の促進も促されます。

 
同時に、市場の自動浄化作用が働き、

当面の利用予定はないがインフレヘッジや相続対策として取得するといった消極的な取得、もしくはトンネル会社や違法な利用を目的とした取得の抑制も期待できます。

郡部等の需要の低い不動産にも透明な市場、知識の共有を

これまでは需要のある不動産についてでしたが、それは一部の都会に限ったことであり、今後の日本の不動産を考えるにあたっては、需要が減少傾向、もしくはそもそも需要がないような郡部等の不動産とどう向き合うかは避けて通れない問題です。

郡部等の不動産は、最も有効活用する人が購入すべきという以前に、誰も購入希望者がなく、いつ現れるかわからない幻の買い手の登場を延々と待ち続けている、というのが現状です。

 
非常に難しい問題ではありますが、この問題に手を付けるにはまずは現実をもっともっとよく知る必要があります。

郡部等は大手不動産会社が進出しておらず、情報公開に対し消極的な地域性で、数少ない取引事例すら開示されにくい状況にありますが、この傾向は完全に改めるべきです。

事例が出てこないのは、取引がないからなのか、あっても公開されないからなのか、売買や相続による移転登記すらないのか、ないならはっきりとゼロと表示すべきです。また、エリアの売却希望者と購入希望者の数、マッチングしないのはどういった条件の乖離があるのか、そういったデータをなるべく押さえていくのです。

 
データが出揃えば不都合な真実も可視化されます。

自分の所有地と似たような土地を売りたがっている人は10人いるが、欲しいと思っている人は0人、希望エリアではないが条件次第では土地の購入を検討するという人にオファーしてみたが全員にタダでもいらないと言われた。

といったようなことをすべての地権者が知ることになれば山が動く可能性があると思います。

困った状況にあることがわかれば必死に考えるものです。人類はそのようにして進化してきました。

地域特有の事情もあるでしょうが、同じような状況の郡部等は日本全国に無数にあり、それらが様々なケースを共有し合うことで何か突破口となるアイデアが出てくるかもしれません。もしくは完全に諦めるという判断ができるかもしれません。

実現への道のりは遠いが…

私は不動産仲介者の一人として、顧客に対してこのような理念を持って業務に取り組んでいることを伝え、少なくとも私が関わる取引には理念が反映されるよう取り組み、場合によっては世の中に対しても発信して行きたいと思います。

 
ただし、もちろんですが、

・透明な市場にすべく構造改革とデータの拡充を図っていく
・知識の共有のためにシステム構築と関係業界からの理解を得ていく

それらは業界全体での取り組みが必要なことであり、今の私には業界に働きかける力はありません。

 
時間は掛かりますが、まずは自分のできる範囲で少しずつ取り組んでいきたいと思います。

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shiro-shita

仙台在住の”不動産コンサルタント” 就職超氷河期世代かつリーマンショックの直撃を受けたりと時代に翻弄され不動産会社を転々。苦く、しょっぱい経験に裏打ちされた不動産スキルはある意味ではリアルそのもの。

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