負動産問題で仲介手数料増額に

不動産知識・テクニック

低額不動産の売買時における仲介手数料が増額されものの、それでもなお”負動産”問題には懸念が残る件 ​

低額不動産の売買仲介手数料を増額するほど負動産問題が深刻ということ

 
空家や所有者不明地といった”負動産”が社会問題化する中で、宅地建物取引業法が改正され、不動産売買の仲介手数料の上限額が変更されました。

今後は400万円以下の不動産の売買は上限が18万円(税別)となります。

なぜ改正する必要があったか?

売買の仲介手数料は3%と一般的に認識されていると思いますが、

正確には、売買価格200万円までは5%(税別)、200万円以上は4%+2万円(税別)、400万円以上が3%+6万円(税別)でした。

低額であるほど率が上がるのは、低額物件だと調査等の手間の割には手数料が低くなるからですが、

 
ただし、それでも手間の割に手数料が低いのです。

 
売買価格50万円だと25,000円(税別)です。

 
移動に半日かかるような郡部だと調査のために一回行って、契約前に重要事項調査しに行くと人件費考えると赤字です。

それで不動産業者が低額物件を敬遠し、空家問題の一因となっていることから今回の改正に至りました。

 
改正により、極端な話、売買価格が1万円であっても、手数料として18万円(税別)を受領できます。

暴利を貪っているように思えるかもしれませんが、仲介の業務自体は価格が低いからといって大きく減るわけではありませんし、例えば司法書士が請求する登記手続きの報酬額なんかは売買価格が低くてもそれなりに掛かり、仲介手数料より高くなったりしますし(所有権移転の登録免許税は固定資産税評価額に比例しますが)、業務の割に不相当に高ければ当事者間でもっと低い額で取り決めるのは自由です。

そして、改正されたのは売主・・から受領できる手数料の上限額で、買主からは従来通りとなります。

それでもまだ課題が…

今回の改正で問題がすべて解決という訳にはいかないようです。

かえって調査料として請求しにくくなる

改正法の条文を読むと、400万円以下のすべての物件に該当するのではなく

低廉な空家等で通常の媒介(仲介)と比較して現地調査等の費用を要するもの

が対象となっています。

現地調査をするのに特に費用を要さないような低廉な物件や空家以外だと対象にならないと読めるきらいもありますが、

あくまでも調査費用を含めての手数料となっています。

 
前もって業者が顧客に調査費用を請求するのは推奨されず、成約してはじめて調査費用の負担を回収できるということになります。

例えば、市街地の物件の場合、調査するまでもなく市場価値があることが明白なので、もちろん最終的に様々な理由で成約に至らないことがあっても、特段、調査費用だけを請求することは基本的にありません。

 
しかし、郡部の物件の場合、そもそも市場価値がまったくないかもしれません。運よく売れてもそれは何年も先かもしれません…。

 
手数料の上限が引き上げられてもその時点ではまだ絵に描いた餅です。先が全く見えない段階で調査費用を前払するリスクは業者としてはなかなか負いにくいのです。

 
それで調査もしないで断るよりは、所有者の了解のもと有料の調査を実施して、不動産の市場性や問題点、今後の取り扱い方の提案を行った方が生産的だと思います。

それが改正法では報酬は調査料金を含んでいると記載されているので、成約時の手数料の上限が引き上げられても、成約が見込めると判断できないと結局は着手できないことになるかもしれません。

 
もちろん、抜け道はたくさんあって物件を広告するための費用としたり何かの名目をこじつけたりすればいいのですが、正々堂々と実情に即した取引をした方がいいにこしたことはありません。

改正されたことがあまり知られていない

これは世の中的には本当に小さな改正です。

ニュースで取り上げられることもなく(たぶん)ほとんどの方が知りません。不動産業界の人でもあまり知らなかったりします。

世の中的にあまり周知されてない中で、物件所有者が売ろうとしてそこで始めて知ると拒否感が募るかもしれません。

所有者からすると一見して負担の増える悪い話なので。

対して、多くの不動産業者にとってこの改正を受けても、それでも低額物件を積極的に扱うようにはならないと思われます。
そういった温度差をなくすためにももっと世の中に周知されることを望みます。
 

空家や所有者不明地の問題を助長させているのは

何かと細かい問題のある(あくまでも私見ですが)今回の改正ですが、それでも空家問題に一歩前進です。

空家問題を難しくしている原因はいくつかありますが、不動産業者の手数料の問題は微細な部分で、最大の問題は不動産自体の資産性がないことです。

田舎の原野であっても将来は都市化するかもという期待を持てた時代もありましたが、現在は無価値であるどころかマイナス資産であることが明白になっています。

先日、埼玉県深谷市が不動産を有償で処分した件が話題になりました。

 
 
そして、もう一つの理由は捨てきれない不動産への執着だと思います。

バブルの頃に原野商法で騙されて買った土地、騙されたとわかったが損切りできず、いつか値上がりすると一縷の望みを託して今日まで持ち続けたが、最近は維持管理に手間が掛かるだけではなく、家族の目も冷たい…、それでもまだ売る気にはならない。

 
昔は価値があった。これを得るのに苦労した。思い出がある。

 
現時点ではそこにこだわるのが何のメリットがないと頭ではわかっていても、感情的に気が進まない、そういった非合理的性がネックになっていると思います。

まぁ、絶対にもう使わない昔の家電ですら処分せずとっておく人がいるので、そんな人に不動産を処分させることは無理筋なのかもしれませんが、

 
 
そういった方には申し訳ないですが、やはりそのままにするほどよくない問題なのです。

空家問題がクローズアップされてから、空家特措法をはじめとし、宅建業法の手数料額の改正、さらには相続登記制度の見直しや、土地を放棄できる制度まで検討されています。

ここまで矢継ぎ早に法改正や議論が進むのはそれが深刻な社会問題となりうるからです。

「売るべき」とも「売れる」とも言えませんが、やはり本気でこの問題に向き合うべきなのです。

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shiro-shita

仙台在住の”不動産コンサルタント” 就職超氷河期世代かつリーマンショックの直撃を受けたりと時代に翻弄され不動産会社を転々。苦く、しょっぱい経験に裏打ちされた不動産スキルはある意味ではリアルそのもの。

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