個人的なはなし・意見

自営業の鉄則

あなたや私がアントレプレナー(起業家)に向かない理由

たまに脱サラして起業したいという相談を受けます。

「貯えもそんなにある訳じゃないのと、うまくいかないときにはすぐに退却できるように初期投資はなるべく低く、借入もしないのが望ましい。最初はなかなか売上は期待できないんだけど、最低限食っていける程度というか、妻の理解も得られるように今くらいの給与はほしい。もちろん、それで満足ってことではなく、少しずつ売上を上げていって、いずれはベンツSクラス乗りたい。」

 
起業という一大事の前で不安と希望が交錯しているんですね。気持ちは痛いほどわかります。

 
ただし、申し訳ないですが、事業家としての発想には全くなっていないと思います。

起業のリアル

というのは、事業は投資であり、投資の基本的な考え方にリスクとリターンのトレードオフがあります。リスクを取らないとリターンがないということです。

仮に金融商品だったら、ローリスク&ハイリターンのものがあるはずないのは誰でもわかるでしょう。あったら詐欺を疑うべきです。

なので、初期投資が低く、失敗した場合に全てを失うリスクも取らずに、今の収入が確保できて、ベンツが乗れるほど儲かるってのはあまりにリテラシー低い発想です。

 
「商材次第では可能性あるのでは?」という声もあるかもしれませんが、

競合他社より革新的な商材だとしたら、最初は商材の良さが伝わりにくいので広告を強化しなければなりません。また、商品の実物を見たり体感できるショールームないしは店舗を設けなければなりません。さらに、店舗にはスタッフに商品在庫も置かなければなりません。その上、軌道に乗るまでの運転資金も厚めに確保しなければなりません。

ざっくり億は掛かります。

もちろん借入をすることになりますが、それだと失敗したときのリスクは高いです。事業が思惑通りに行かず借金の返済を滞れば基本的に会社も代表者個人も破産することになるでしょう。

 
むしろ、世の中にありふれた商材の方が世間が認知しやすいので起業のハードルは下がりますが、それでも会社組織としてやろうとすると広告、店舗、スタッフ、在庫、運転資金が多少なりとも必要で、数千万円の投資は必要となるでしょう。借入で賄うとなれば結局は失敗するとすべてを失う羽目になります。

自営業のすすめとその鉄則

では何千万も借入して破産リスクを取らないと事業はできないのでしょうか?

 
決してそんなことはありません。

現に私はあまりリスクを取らずに事業をしています。

 
なぜか?

私は一応は法人ですが実質的に自営業者なのです。要は、自営とかフリーランスと呼称されるのがしっくりくるような形態を取ればいいのです。

 
ただし、もちろん自営なら何でもいいということではありません。条件があります。

今の仕事を、今の顧客のまま

ビジネスを一から立ち上げるとなると、世の中に会社や商品が認知され、興味や信頼を持たれ、購買に至るまで多額の投資が必要ですが、すでに成り立っているビジネスをそのままビークルを変えるのであればショートカットできます。

業界や会社によってやりやすいところとそうでないところがあり、不動産や美容師、整体、士業は比較的やりやすいですが、重厚長大産業や公務員だとまず無理で、そうでなくても人事部とか総務部といった部署の人も難しいでしょう。その場合は親とかがやっている事業をそのまま引き継ぐとかM&Aするとか、まずはサラリーマンしながら副業として始めるという方法もあります。

生活は地味に

初期投資をショートカットできた場合、既存客からは認知、信頼を得てそのまま購買してもらえますが、既存客以外にはほとんど無名な存在であり、それでいて、広告等への投資もしないので、新規客の取り込みはかなりハードルが高いです。

つまり売上は落ち込むことはあっても伸びることはないくらいの覚悟が必要であり、稼ぐ意識より凌ぐ方が重要です。

そうなると、新築マイホームをフルローンで買ったばかりとか、子供がインターナショナルスクールに通ってるとか、年に一回は家族で海外旅行に行くみたいなライフスタイルは向きません。

むしろ、いい年して独身で親元にいて、特に趣味もなく、交友関係が限定的でマウンティングする相手もいない、といったつまらない奴の方が向いています。

自分一人で自宅でやる

仮に、自分の生活費が月20万円、事業の経費が10万円なら、30万円の売り上げがあれば一応継続できるということになりますが(納税考慮せず)、人を雇うとなると全然話が別です。

人を雇えば当然ですが給与を払わなければなりません。この人手不足が叫ばれる時代に極限零細自営業がまともな人材を雇おうとすると、他社よりいい待遇を提示しないとなりません。というか、自宅に来て働いてもらう訳にはいかないので事務所を借りる必要があります。また、人を雇えば給与以外にも社会保険料や交通費、消耗品、水光熱費等の経費が増します。

それらを賄うのに倍は売上が必要でしょう。

そもそも伸ばすのが難しい売上を倍にする、しかも単月ではなく恒常的となると現実的ではありません。そこにチャレンジしてリソースを割くくらいなら、雑務を含めた全業務を自分でやり続ける覚悟をした方がいいでしょう。

ローリスク&ミドルリターンのビジネスを探し彷徨い続ける病魔

要はローリスク&ローリターンに徹するということです。

特に事業家的発想ができていない人はリスクとリターンのトレードオフが腹落ちせず、ローリスク&ミドルリターンのビジネスがないか何年、何十年と彷徨い続けます。それこそが事業家として最も致命的なセンスの欠如です。

豊臣秀吉とか田中角栄のように平凡もしくはそれを下回る境遇から、己の努力と才覚で少しずつ功名を成し、最終的にトップに上り詰めるみたいな偉人伝が読み物としては面白いので、努力と才能次第では成功できると思うのでしょう。確かに努力と才能はリターン率を上げる要素ではありますが、リスクなしではそもそも事業がスタートしません。

 
逆に、自営ではなくある程度の規模でビジネスをやるつもりであれば最初から少なくとも2人以上で自宅以外を拠点として始めるべきです。「自宅で1人→事務所で2人」は倍ですが、「事務所で2人→事務所で3人」なら緩やかなステップアップでおさまり、最初を凌げば事業を成長軌道に乗せやすいはずです。

 
また、昨今はSNS集客とかクラウドファンディングでリスクを取らなくてもチャンスが転がっているように思えますが、それはまやかしです。

SNSでインフルエンサーになるのは芸能人とかカリスマ経営者のような元々有名な人以外だとオリンピック代表に選出されるレベルの狭き門です。クラウドファンディングはあなたの可能性を誰かが見い出してくれてお金を出すのではありません。資金以外の要素はほぼすべて満たされている誰が見ても魅惑的なプロジェクトのみに資金が集まるのです。クラウドファンディングは要はビジネスコンテストで、募る金額によりますが、億が必要なら一流大学の研究室とか、スタートアップ界隈ですでに実績のある人のプロジェクトと対抗しなければなりません。日の目を見ていないプロジェクトならなおさら人は肩書で物事を判断します。

 
かくいう私もサラリーマン時代は起業するための商材をずっと探していました。ブルーオーシャンな商材を見つければ資金は引っ張れると思っていたからです。でも、何年もそうして彷徨った挙句、自分にはそんなリスクを取れる人間ではないとわかりました。それを知ったときが、自営業の立ち上げを決断した瞬間です。それから5年近く自営業してきましたが、その認識は正しかったと思います。

事業を始めるというとアクティブで夢が広がるイメージがあり、こんな話をすると水を差すようで顰蹙を買いますが、むしろ、多くの脱サラ予備軍にとって私の言葉の方が知るべき現実なのではないでしょうか。

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shiro-shita

仙台在住の”不動産コンサルタント” 就職超氷河期世代かつリーマンショックの直撃を受けたりと時代に翻弄され不動産会社を転々。苦く、しょっぱい経験に裏打ちされた不動産スキルはある意味ではリアルそのもの。

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