売り手自らが不動産を主体的に売却するための「販売戦略」の立て方

不動産知識・テクニック

売り手自らが不動産を主体的に売却するための「販売戦略」の立て方

不動産売却戦略立案のための4P分析

前回は売り手自らが主体的に行う現代的不動産売却のための現状分析について記載しましたが、今回は現状分析によって得られた情報をもとに実際に販売戦略を策定します。

【前回の記事】売り手自らが不動産を主体的に売却するための「現状分析」の仕方

販売戦略

販売戦略は現状分析同様にマーケティングで用いられる4P分析を準用して記載します。

【戦略1】Product「商品バリューアップ」

費用対効果が合う範囲かつ負担可能な範囲で、バリューアップして物件の強みを伸ばしたり、弱みを克服できないか検討します。

不動産なので大部分は変えることができないのに、しかも、費用対効果が合うものって難易度高過ぎって感じです。さらに、バリューアップした場合の売買価格の上積み予測も難しいのですが、高値売却を追求する上では検討自体は行うべきフェースです。

ポイントとしては例えば以下のようなものがあります。

特に目に付くところの印象を良くする
物件の第一印象は買い手の購入判断に重要です。付け焼き刃的ではありますが、下記の第一印象UPに絞った施策は効果的だったりします。

・玄関と廊下の照明LED化
・玄関床材の交換(マンションの場合)
・リビングのクロス張り替え
・ハウスクリーニング

ハウスクリーニングは見た目もそうですが、臭い対策としても重要です。室内に入っていきなり生活臭が立ち込めるというのは大きくマイナスです。

ホームステージング
最近はモデルルーム並みに家具を配置して見た目UP&実生活イメージさせる手法が流行っています。
(家具はレンタルが多く期間が来ると撤去)

そこまではしなくても、ダイニングテーブルセットやソファーがあると見に来た顧客と自然に商談に入りやすく営業上のメリットがあります。これまでの家具を一部残置することで対応できる場合もあります。

抜本的なリノベーションにより潜在価値を引き出す
不動産転売業者的な手法ですが、200万円のリフォーム工事をして300万円高く売るみたいな感じです。

襖や障子で仕切られているだけでほとんどプライバシーが確保されない3DKを好む顧客は今時いませんが、リノベーションしてスタジオタイプにすれば商品性も顧客ターゲットも変更できます。

商品になってないものを商品にする
例えば接道義務を満たさず建物を建てられない土地について、隣接地権者と交渉して足りない部分を譲ってもらえれば価値が飛躍的に上がります。

 
一般の人が売却する場合、何も手を加えず売るというのが圧倒的多数ですが、不動産会社が転売する時は何らかの手を加えることが断然多いです。その違いはノウハウの差ということになりますが、そのノウハウの習得に努め現代的な売却を実現いただければと思います。

【戦略2】Price「売出条件」

売り手を巡る状況、売却基準価格・物件特性、想定顧客、競合物件、商品バリューアップを総合的に判断し売出条件を決定します。

売出価格は、売却基準価格に値引き交渉を考慮して上乗せしたり、バリューアップしたのであればその分を加味したりします。

売出条件は売出価格以外には、契約不適合責任の有無や、有の場合の保証期間、境界確定の有無、私道の場合の持分譲渡や通行&掘削同意の有無等々になります。

契約不適合責任について、かつては一般の売り手の場合は負担無しにすることが多かったのですが、近年は3ヶ月〜半年程度は売り手が保証することが一般的になっており、特に財閥系大手不動産会社が仲介したり、大手建売会社が買い手の場合は基本的には売り手に一定期間の負担を求めてきます。

現行法では必ず負担を負わなければならないということはありませんが、負担を負わないとする場合はその負担軽減を金銭的価値に置き換える(つまり売買価格を下げる)のが一般的です。

【戦略3】Place「仲介者への依頼」

仲介者に依頼するかどうか、依頼する場合はどういった仲介者に依頼するかを決定します。

依頼する場合、ここまでのフェーズを経た売り手ならそれなりに知識が身についているはずなので、右も左もわからないような新人仲介者や、自分の経験だけを盲信するような時代錯誤な仲介者に依頼することはないでしょう。売り手の考えを汲んで売却活動を行ってくれることを必須条件にすると思います。
 

媒介依頼については媒介契約の種類がクローズアップされますが、個人的にはさして重要な論点だとは思いません。

①一般媒介…複数の仲介者に同時に依頼できる。仲介者は媒介報告義務なし。

②専任媒介…依頼できる仲介者は一社のみ、ただし、売り手自らが買い手を見つけるのはOK。仲介者は2週間に1度の報告義務。

③専属専任媒介…依頼できる仲介者は専任媒介同様一社のみで、かつ、売り手が買い手を直接見つけてもNG。仲介者は1週間に1度の報告義務。

となっており、

これまで個人的には、商品性が高く売り手市場の物件なら一般媒介で仲介者に競って売らせる、商品性が低く買い手市場の物件なら専任(もしくは専属専任)媒介で仲介者にコミットしてもらう、のがいいと思っていましたが、

 
今では媒介契約の種類自体はどうでもいいと思っています。

 
というのは、集客のメイン手段が不動産検索ポータルサイトになるので、掲載が1社のみだろうが、複数社が同時に掲載してようが買い手への訴求力が大きく変わるという程ではありませんし、逆に媒介の種類によって何か弊害が起こるということもありません。強いて言えば一般で複数社に依頼すると一々全てに連絡するのが面倒な程度です。

中には専任媒介でないと広告やサービスを制限しないとならないと言ってくる仲介者もいますが、要は専任でなければ本気でやらないということであり、他に本気でやる仲介者がいればそちらを優先すべきです。

また、専任媒介だと売り手が特典を得られることを謳う仲介者もいます。それも上記同様一般媒介だとサービスを制限するのと同じ意味なので本気度を疑いますが、どうしても特典が魅力的ならとりあえず依頼してみるのも手です。それで別の仲介者にも依頼したくなったら専任媒介契約を解約し一般媒介に切り替えればいいのです。媒介契約は売買契約締結前であれば基本いつでも一方的にペナルティーなく解約できます。

 
また、媒介契約の種類により報告の頻度が違いますが時代錯誤なルールです。

一般であれ専任であれ、売り手が知りたい時に状況を確認できない仲介者には依頼すべきではありません。

 
制度としての媒介契約には一般も専任も専属専任もメリット&デメリットに明らかな違いはないのです。

そして、専任媒介(もしくは専属専任媒介)だから売り手と仲介者が信頼関係を築いたり、有効な販売戦略を立案&実行できるのではありません。

順序が逆で、重要なのは仲介者と信頼関係を築き、有効な販売戦略を立案&実行することであり、それができれば媒介契約の種類なんてどうでもいいのです。

【戦略4】Promotion「広告・集客」

想定顧客に物件の特徴を広告宣伝して営業しますが、

最初から一般公開する場合と、一般公開前に特定の見込客に個別にあたる場合があります。

特定の見込客とは、隣接地権者等の物件への関わりが強いような人、もしくは不動産買取業社です。

隣接地権者については、その地に愛着を感じていることが多く高評価バイアス、自分の土地と合わさることでのスケールメリット、顔見知りゆえの断りにくさ(顔見知り故の買いにくさもありますが)があり、実際に取引に至るケースが多く、取引条件も相場を下回りにくいです。

不動産買取業社を当たるのであれば一般公開前の方が適しています。なぜなら買取業社としては転売前の価格が公開されてない方が好都合だからです。しかし、買値は相場の6~7割程度が一般的で、売却を急いでいたり、価格条件を気にしていない以外は期間の損失になることが多いです。急いでないのなら参考見積程度に打診するのもいいかもしれません。

 
一般公開する場合、広告手段をどうするかですが、不動産広告には下記のような種類があります。

【ネット】
・大手不動産検索ポータルサイト(athome、homes、suumo)※仲介者への依頼必須
・レインズ(不動産業者専用物件情報ネットワーク)掲載 ※仲介者への依頼必須
・ネット広告(GoogleやYahoo!のリスティングやディスプレイ広告、FACEBOOKやTWITTERといったSNS広告)

【リアル】
・現地看板
・チラシ投函
・新聞折込
・住宅情報誌 ※仲介者への依頼必須

【事業者向け】
・不動産会社に一斉FAX
・ハウスメーカーに一斉FAX(土地の場合)

個別の不動産物件を販売する場合、とにかく大手不動産検索ポータルサイトからの集客が圧倒的なので欠かすことはできません。

ポータルサイトは想定する顧客ターゲットに対し能動的に、また物件の特徴を際立たせて訴求するのが難しいという部分はありますが、なるべく物件の特徴を訴求できるよう写真や図面、説明文を工夫して入力するのがプロモーションにおける最重要事項です。

また、レインズに掲載し、不動産会社それぞれが持つ顧客情報を活かし客付けするシステムを使わない手もありません。中には専任媒介で受けているにも関わらず物件を囲い込んで他社の客付けを拒否する仲介者もいますがモラルの低い前時代的な対応です。

併せて居住中の建物でなければ現地看板設置が望ましいです。さしたる費用&労力が掛からず(内製化すれば)広告効果も取り外すまで続きます。

不動産会社、ハウスメーカーへの一斉FAXも費用&労力の割に(リスト化の作業を除けば)効果は高いと思います。

 
ただし、次点の広告手段となるとなかなか悩ましいです。

ネット広告はページビューにはつながるもののほとんどコンバージョンしません。チラシ投函、新聞折込、住宅情報誌掲載は費用が掛かるものの広告効果が一過性であり、その効果もネット社会の進展を受け全体として凋落傾向です。

記載以外では、直販サイトを含む大手3社以外の不動産検索サイトに掲載したり、飛び込みやテレアポ、ブログやアフィリエイト広告等いくらでもありますが、どの手段が効果的とまでは言えません。

 
一般的な商品の販売であれば、この手段で100個売れた、あれなら1000個と比較ができるでしょうが、個別の不動産なら1つ売れるかどうかなので、その手段が効果的だったのかそれとも偶然だったのか判断が難しいです。仮に不動産会社がそれぞれデータを提供し合いデータの母数を増やせば傾向らしきものがわかるかもしれませんが、結局は広告手段というより物件次第で適する広告手段は異なるという結論になるでしょう。

私の経験で言ってもなかなか売れなくて様々試行錯誤した挙句に不動産検索ポータルサイトやレインズから問い合わせがきて決まるということが何度もありました。

 
仲介者に依頼している場合、通常、広告は費用も労力も不動産会社が負担しますので、売り手としては無制限に広告してもらうのが望ましいですが、不動産会社としてはいくら売却にコミットするとはいえ湯水のように広告費は使えません。

ポータルサイトは掲載件数を予め決めて定期契約しているので不動産会社としては費用負担感があまりないですが、それ以外の広告手段に関しては、大手不動産会社では一定の社内基準を満たさないとならなかったり、会社によっては売り手に費用負担を求めるところもあります。コスイと感じるかもしれませんが仲介手数料が成功報酬であることを考えると致し方ないことです。

このような不動産会社の事情も汲みながら実効性のあるプロモーション手段を検討するのが現代的な不動産売却と言えるでしょう。

検証&見直し

売出し開始から3ヶ月も経てば当初の販売計画の妥当性を検証できる頃となります。
(需要見込がほとんどなく元々販売期間長期化を覚悟していたような物件は別ですが)

ただし、検証といっても物件毎に想定する顧客層が異なるので、一律に問い合わせ何件以上が妥当と言うことはできません。

あくまでも、ページビュー、不動産業者からの問合せ数、顧客からの問合せ数、具体的な商談に至った組数といった定量的情報と、顧客の物件を問い合わせ理由、検討の取りやめ理由、競合物件の成約状況といった定性的情報をもとに総合的に(というか感覚的に)判断することになります。

なお、3ヶ月経って具体的に検討している買い手候補がいないどころか問い合わせすらなかったとなると、少なくとも物件のような売り物を出待ちしていたニーズ健在客はいなかったと言えると思います。

検証後の選択肢は以下のいずれか(もしくは複数同時選択)ということになります。

・プロモーションの訴求手段を変える
・物件の商品性を上げる
・販売価格を下げる
・そのまま販売を続ける(販売戦略を見直さない)

プロモーション手段は前項で述べたようにいくつもありますが判断がなかなか難しいものです。また、商品性を上げるといっても今更バリューアップにお金を掛けるくらいなら価格を下げる方が楽です。

ということで、価格を下げるかそのままかが主要な選択肢で、それにプロモーションを付加的に行う程度ということになり、見直しの余地は現実的にはあまりありません。

 
販売価格を下げるのは、値下げが成約につながると確信を持てるケースはほとんどない上に、敗北感も伴うのでなかなか踏ん切りがつかないということはよくあります。

値下げすることで、これまでは希望価格から外れていることで検討から外していた顧客はどれくらいか、もしくは、もともとは物件の価格以外の要素で検討から外していたが金銭的メリットがあれば妥協できる顧客はどれくらいかと考えると、そんな顧客ほとんどいないような気がしてきますが、

若干でも値頃感のある価格として捉えられれば、顧客の方で様々なニーズが喚起され予想外の顧客から問い合わせが入ったりするものです。私個人の経験でいっても、全く手応えはないものの他に方法もなく値下げしたところ、全く予想だにしないニーズの問い合わせが入って成約するということが何度もありました。逆に価格を下げてもうんともすんとも言わないということも当然幾度となくありました。

 
そのまま販売を続けるというのは、潜在的なニーズを有する顧客まで物件が浸透するのと、市場に新たな顧客が供給されるのを待つということです。

それって通常どれくらいの期間が掛かるか、そんなこともちろんわかりません。特にそもそも顧客層が薄い物件の場合、半永久的にその時は訪れないような気がしてきます。

ただ、こちらも私の経験ですがこれで決まったことが皆無ではありません。

 
売れてなければ検証&見直しの必要性を感じます。特に目の前に課題があると無視できない優秀な人ほどそう思うでしょう。

しかし、不動産売買では現実的に取りうる選択肢は少なく、その数少ない選択肢を比較検討できるデータという程のものは多くの場合なく、感覚的もしくは消去法でやる他ありません。優秀な人ほど判断する根拠を見出せないでしょう。

それが不動産という個別性が高くたった1つ売れば終わるものの販売戦略を論理的に導き出すことの現時点での限界となります。

あとがき

以上、現代版の売り手自らが主体的に売却する方法でした。

主体的というのは必ずしも仲介者に依頼しないということではありませんが、ことプロモーションにおいては現時点では仲介者なしでは手段が限定されることは否めません。

直販サイトが増えているので物件種別や地域によっては十分カバーしうるかもしれませんが、直販サイトといえ、利用料が掛かり、当然取引リスクは仲介者に依頼するよりも増大するでしょうから、そういった部分も含めての総合的な判断が必要となります。

 
逆に仲介者にとっては仲介サービスの価値が大手不動産検索サイトやレインズに掲載できるってだけだと何とも寂しいものです。

時代が変わり、情報の価値や顧客のリテラシーが変われば、仲介者のサービスの在り方も当然変わっていかなければなりません。

それも顧客に引っ張られて仕方なく変化するのではなく、未来の仲介の在り方を自ら率先して提示していくことが望ましいのだと思います。

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shiro-shita

仙台在住の”不動産コンサルタント” 就職超氷河期世代かつリーマンショックの直撃を受けたりと時代に翻弄され不動産会社を転々。苦く、しょっぱい経験に裏打ちされた不動産スキルはある意味ではリアルそのもの。

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