賃貸解約交渉の現在地
第15回は退去による解約精算、原状回復についてです。
原状回復の考え方
借主が解約した部屋はどんなにきれいに使っていても、次の入居者を募集するためにある程度の修繕やクリーニングが必要で、オーナーとしてはなるべく解約した人から原状回復費用として徴収したいものです。
しかし、言うまでもありませんがオーナーが合法的に請求できる項目は限られています。
合法的に請求できる原状回復費用は、
- 借主の故意過失による汚損、破損のみ
- 汚損、破損が一部分であればその部分に限られ、最小単位はクロス1㎡、ふすま1枚、畳1枚
- その場合も居住年数が長いほど借主負担が減る(例えば壁紙は6年住めばいくら汚しても借主は1割のみ負担)
なので、自然損耗&経年劣化、ハウスクリーニング、バリューアップは対象外です。
(特約等で別途合意をしていれば請求できますが、その場合も消費者契約法で借主が保護されることもあります)
このことをシカトしてオーナーに有利(借主不利)な請求をしても、もめると労力と金銭の二重の損失になるので、あまりに原則から乖離した請求をするのはおすすめできません。
原状回復費用の見積
借主との退去精算上、原状回復工事の見積は作成する必要がありますが、
前述のように原状回復費用はバリューアップの内容で見積りをしてはなりません。かたや、次の入居者募集のためのリフォーム工事は、商品として市場に求められるレベルに仕上げないとならず、長期間貸しっぱなしだった部屋はバリューアップが必要となるでしょう。
なので、原状回復費用の見積はあくまでも退去精算用の便宜的なものであり、実際のリフォームとは別に考える必要があります。
実際に施工しない内容で請求することに疑念を持つかもしれませんが、判例上は認められています(仮に実際に施工する内容が原状回復費用を下回る場合でも問題なし)。
カラ見積りとなる原状回復費用見積を誰が作るかという問題もありますが、実際に施工するリフォーム会社さんにサービスで作ってもらおうとすると、時間が掛かったり、こちらの意図を理解せず何度か出し直しをお願いしたりかえってストレスなので、リフォーム単価を把握してオーナー自身で作成するのが手っ取り早いでしょう。
精算交渉
借主との退去精算交渉はこれまで日本全国に夥しい事例があり、解説しているサイトも多いのでそちらを参照いただければと思いますが、実務的な視点で補足させていただきます。
一つは、原状回復ガイドラインでは経過年数によりオーナー・借主の費用負担割合を決めるとなっていますが、居住年数ではなく経過年数となります。また、実際に裁判で争う場合、そのエビデンスが必要になります。
入居直前にクロス貼替えしたと言い張っても、いつ、何をしたかを証明しないと相手にされません。なのでリフォーム業者からの見積や請求書には施工部位や数量を記載してもらい保管しておく必要があります。
次に、保証会社が付いていると原状回復費用も賃料の数ヶ月分まで保証してくれますが、オーナーの言い分だけで払ってはくれず、借主が支払う旨の合意書等を求めてきます。
夜逃げはもちろん、精算について借主と争っているケースでは適用が難しいです。
次の入居者募集のためのリフォーム
次の入居者募集リフォームは前述の通り、精算交渉結果によらず、商品性を考慮して実施すべきです。
(原状回復費用が取れない、取れても少額でない袖振れないということもあるでしょうが、それは賃貸経営の継続にイエローもしくはレッドシグナルが灯っている状況です)
リフォーム内容は賃貸経営を継続できる予算範囲内で、かつターゲット層のニーズを満たすものとなり、そのノウハウ習得は賃貸経営の根幹に関わり、あまりに広大深遠なので本記事では取り扱いませんが、
1点だけ申し上げると、最も重要なのはパートナーとするリフォーム会社の選定です(自分自身で行う場合を除いて)。
建築業界は資材価格上昇、人手不足で厳しい経営環境にあり、店構えが良くしっかりしていると思いきや現場作業ができない営業スタッフの人件費と広告宣伝費で工事費が割高だったり、逆に安くても施工品質や工期遵守が劣悪でいつ夜逃げしてもおかしくないレベルだったり、とてつもなくハズレが多いです。
良いリフォーム会社に巡り会えたのなら、自分を客と思わず、パートナーとして良い関係構築に努めましょう。
解約精算のスリム化を目指すべき
近年は敷金を廃止して契約時にクリーニング費用を徴収する傾向になりつつあります。
契約時クリーニング費用は、あくまでもハウスクリーニング費用に充当され、それ以外に室内に借主故意過失の汚破損が生じていれば別途支払ってもらうことになっていますが、たいてい契約時クリーニング費用は実際のハウスクリーニングより高めに設定されており、ちょっとした汚破損であればそれに含めて追加徴収しません。
もちろん汚破損が大々的であれば追加徴収するので、敷金を預かった方が安心ではありますが、敷金を丸々返金させられ、さらにハウスクリーニング費用も消費者契約法を根拠に拒否されるよりはマシです。
オーナー有利な退去精算になるよう強気で交渉するのはコスパや評判の面から悪手ですし、敷金は時代にそぐわなくなってきているので、物件にもよりますが、契約時クリーニング費用に切り替え、それ以外も全体的に解約精算の業務自体を減らしていく方向性が正しいのではないかと思います。
shiro-shita
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