不動産賃貸業はこれから逆風が予想されます。
これまでは物件を所有するという参入障壁さえクリアすれば不動産や経営のプロフェッショナルでなくとも利益を出せたものが、今後は、混迷を増す世の中、人口減、空家増に加え、競合増加&レベルアップで簡単ではなくなります。
他物件との競争に敗れ、何年も空室が続くような物件が多く出てくるはずです。
そのような劣勢となった物件が元気に再稼働するためには何らかの”策”が欠かせません。
その物件が稼働、つまり入居を促進するための策ですが、様々あります。
賃料を下げたり、フリーレント期間を設けたり、お洒落にリフォームしたり、民泊にして運営したり…
今回は様々ある入居策をまとめてみました。
賃貸物件の入居策
そもそも入居策には大きく分けて3つのカテゴリーがあります。
順にご説明します。
商品性向上(バリューアップ)
(1)専有部分
・内装リフォーム(表層リフォーム、設備入替、リノベーション他)
・家具家電付
(2)共用部分
・外装リフォーム(屋根外壁、エントランス、共用廊下他)
・共用設備拡充(オートロック、宅配ボックス、トランクルーム他)
(3)ソフト面
・付加サービス提供(24時間駆け付けサービス、無料インターネット他)
・既存入居者CS
(4)商品性変更
・特定ニーズの顧客層に特化(ペット共生、シェアハウス、ゲストハウス、カスタマイズ賃貸他)
建物は時間の経過とともに経年劣化していきますが、対して顧客の要求水準は時間の経過とともに上がっていきますので、単なる修繕(劣化したものを元に戻す)では追いつかずいずれはバリューアップしなければなりません。
バリューアップは不動産賃貸業を続ける以上はいずれ必要な時期が来ます。そして、費用はそれなりに高額になるので計画的に蓄えないとなりません。
バリューアップを織り込んだ計画を作成し、内容を揉み、資金を貯めていくのが不動産賃貸経営の基本であり、効果的なバリューアップを行い不動産の能力・寿命の最大化を図ることが不動産賃貸業における究極的テーマです。
上記(1)〜(3)と部位別には分かれていますが、より効果的なバリューアップが専有部分なのか共用部分なのかソフト面なのかといった鉄則はありません。ただ、専有部分はピカピカだけど、共用部分がボロボロだったりすると物件のポテンシャルを引き出せないので、いずれは全てをバリューアップしていくことになります。
専有部分のバリューアップは実施後もターゲットとする顧客の方向性としては同じですが、商品性変更はターゲットゾーンを変えます。
ペット共生ならペットと暮らすことを生活の中心とする人、シェアハウスなら共同生活を営みたい人です。
あえてターゲットゾーンを狭め特化するのです。
うまくいけば特定ニーズを独占し、売手市場となりますが、逆に思ったよりターゲットが少なかったり、ターゲットニーズに適わなかった場合、商品性を再度変更するのは大きな痛手を伴うことになります。
賃貸条件変更
(1)値引き
・ランニングコスト(賃料、管理費他)
・イニシャルコスト(敷金、礼金他)
・フリーレント
(2)条件緩和
・低属性受け入れ(生活保護受給者、高齢者、障碍者、外国人、無保証人他)
・ペット飼育可
・原状回復不要
値引きについては、家賃そのものを下げる他に、契約金を下げたり、フリーレントで一定期間の家賃を無料にする方法があります。
家賃を下げると収益還元法的に物件価値を下げますし、契約金を下げると退去時に揉めやすくなるので、導入のしやすさは、フリーレント→イニシャルコストダウン→ランニングコストダウンの順になります。
(ただし、近年は入居者の退去時にかつてのようには原状回復費用を請求できないので、入居策も兼ねて最初から敷金をゼロにする物件が増えています)
条件緩和は他物件が事故リスクを恐れて断る入居者を受け入れます。
バリューアップの商品性変更は特定ニーズの顧客に選んでもらうために設備や内装を拡充したり変更したりするのですが、条件緩和では物件自体に基本的には変更は加えません。
値引き、条件緩和は別モノに思えますが行き着くところは一緒です。
ランニングにしろイニシャルにしろ値引きをすると属性は低下しますし、低属性を受け入れて入居者にそのような人の割合が増えると全体的に値引き圧力が掛かります。
物件の寿命がラスト10年切っているような場合以外では、値引き・条件緩和に依存した入居策では賃料が下げ止まらなくなったり、トラブルの頻発等、かえって負の影響の方が大きくなる懸念があります。
プロモーション
(1)一般向け広告
・インターネット広告(athome、SUUMO、Homes、SNS、自社サイト他)
・紙面広告
・現地看板
(2)不動産業者向け販促
・募集告知(業者向け一斉FAX、reins、業者まわり)
・広告費
(3)内覧対応
・即応性(現地キー、スマート内覧・スマート申込)
・ステージング(インテリア、照明)
主に依頼先の不動産会社が行う項目にはなります。
入居検討者向けの物件情報告知(一般向け広告)と、その不動産会社を介してそれ以外の不動産会社向け告知(不動産会社向け販促)を併用するのが一般的です。
現在の一般向け広告の主流はathomeやSUUMOといった不動産検索ポータルサイトです。多くのサイトに横断的に掲載することで顧客の流入経路を増やせますが、検索結果の中で埋没する物件だといくら掲載を増やしてもアクセスは上がりません。顧客目線で検索されうる条件設定の検討が重要です。
広告費は成約時に不動産会社に支払う手数料のことです。入居者から仲介手数料をもらえるので大家は払わない、欲しい場合は礼金を設定するという時代が長らく続きましたが、現在では地域差が大きいですが複数ヶ月分を元付、客付不動産会社に支払う物件もあります。
不動産会社からの内覧したい旨の連絡はだいたい直前に来ます。随時、連絡を受け付けて内覧できる体制が望ましいです。近頃は電話の前で待機していなくてもテクノロジーで代替する方法もあります(スマート内覧etc…)。
ステージングとは家具、照明、小物でモデルルームのように室内を装飾することです。実際に引き渡すまでには撤去することもあるので物件の価値を上げるというより、あくまでも見た目、雰囲気を良くすることが目的です。
入居策には必ずデメリットが伴う
商品性向上(バリューアップ)は物件価値を上げますが、必ず費用が掛かり、費用対効果は約束されません。
賃貸条件緩和は導入コストはほとんど掛かりませんが、属性低下&値引き圧力の負のスパイラルに陥りやすいです。
プロモーションは不動産会社が行い、基本的に成功報酬なので大家にとっては頼み得ですが、物件の価値が上がる訳ではありませんし、近年は不動産会社による顧客へのプッシュの効果も薄れつつあります。
商品性向上は費用対効果が不確実。
賃貸条件緩和は負の影響がある。
プロモーションは実感できるほど効果が望めないし効果が持続しない。
全部ダメじゃんと思うかもしれませんが当然です。メリットしかない策なんてあり得ません。そんなものがあればみんなが導入して当たり前となり何の効果も生まなくなります。
逆説的ではありますが、導入にデメリットがあり、しかもコストや期間が掛かり誰もが実行できる訳ではないからこそそれが差別化につながるのです。
なお、これらの入居策を、何となく空室が増えてきたので、行き当たりばったりで行うのはオススメしません。
入居策とは実行する時点では仮説なのです。こうしたら物件の長所が伝わるのではないか、もしくは短所を補えるのではないか、という。
その仮説を立てるには「現状分析」によって物件の課題が客観的に把握される必要があります。
次回は現状分析について記載します。
shiro-shita
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