不動産知識・テクニック

【解説】不動産売却のプロセス

賢人は不動産売却を不動産会社に丸投げしない

前回の記事では遊休不動産等活用の検討プロセスについて記載しました。
(前回の記事:不動産活用の検討プロセス

今回は売却に方向性を決めた場合のプロセスについて記載します。

売却目的・理由・ポリシーの明確化

売却を選択された方には、遊休不動産等の活用を検討して売却に方向性を定めた方以外にも、資金が必要だったり、急な転勤だったりと目的や理由が先行して売却する方や、もしくはその中間的な目的の方がいると思います。

目的先行の方は目的がはっきりしているのでしょうが、そういった方を含めて今一度ここで売却における目的やポリシーを明確にすることをおすすめします。

目的・理由・ポリシーの例としては、

  • 住宅ローン支払いが重いので売却してを終わらせたい
  • 引越しにより利用しなくなる
  • 相続で取得したが今後利用予定がない
  • 投資用不動産だが売却し利益確定させたい
  • 相続予定者が遠方で自分の代で処分したい
  • 相続税等の納税資金に充てる
  • 発展性がないエリアにあり、早めに売却した方が良さそう
  • 賃貸等の他の活用よりリスクやリターンの面で有利だから

遊休不動産の活用を検討した方だと、賃貸より売却の方が有利だったからということになるでしょうが、有利だったということは、エリアに発展性がないとか、相続予定者に引き継ぎたくないとか、それ以外の目的も多少なりともあるでしょうし、有利だから選んだ以上は他の活用方法に劣後する結果は避けたいはずです。

 
なぜ売却の目的・ポリシーを明確にするのが重要かと言うと、実際に不動産の販売活動を開始すると、いつの間にか売ること自体が目的になってしまいがちだからです。

目的意識があやふやだと今後の売却プロセスの中で迷いが生じやすく、特に販売開始後の心変わりは関係者を困惑させたり、最悪は契約違反になります。また、売却はしたものの当初の計画とほど遠く、こんなはずじゃなかったということになりかねません。

売却への現状分析

実際に販売を行う上での準備を行います。

物件特性、権利関係の把握

遊休不動産の活用プロセスを踏んだ方だと、売却査定額を出すために、物件の所在、面積といった基本スペック、日当たりとか、道路付けがとかの物件特性や長所・短所も一通り確認されたと思います。その場合は繰り返しとはなりますが、このフェーズでは改めてそのような基本スペックと物件特性を把握するとともに、抵当権がある場合の債権者や残債、引越による住所変更や相続等による名義変更が生じていないかを確認します。

売却予想額

こちらも遊休不動産の活用プロセスを踏んだ方だと確認済みですが、改めて確認します。
また、売却して売却目的が達成できるかは基本的なことですが要確認です。あくまでも売却予想額なので実際の売却価格は上振れや下振れする可能性があります。上振れならいいですが、下振れした際に、抵当権を抹消できないとか、必要な資金に満たなくて目的を達せられないとか、そもそも売却自体できなかったりします。
金額的にも期間的にも無理がないか確認しましょう。

想定顧客

どんな属性の人が物件を購入するか予想します。
物件によって想定顧客は千差万別で、顧客想定により販売方法や顧客へのアピールポイントが異なります。

また、想定顧客層の厚さも当たりをつけます。
顧客層が厚ければ多少価格が強気でも決まりやすく、販売期間も短い傾向にありますが、逆だと相場価格でも販売が長期化しやすくなります。

競合物件

販売中の類似物件をピックアップしてインデックスします。

競合物件が多ければ不利で、少なければ有利という単純なものではなく、想定顧客の厚さにもよってきますが、明らかに競合物件より条件が劣っていて、多数の競合物件が売れ残っていれば売却予想額から再考する必要があるでしょう。

また、特定の競合物件を定期的に観測することで、販売期間はどれくらいか、値下げしたのかといった情報を得られ、市場をより立体的に捉えることができます。

販売戦略

現状分析によって得られたデータをもとに販売戦略の立案し実際の販売活動に入ります。

バリューアップ

物件の室内外の見た目や権利関係を改善することで物件の長所を伸ばしたり、短所を克服できないか検討します。

  • 室内外の動産等の撤去、ハウスクリーニング
  • LED照明化
  • ホームステージング
  • リノベーション
  • 再建築不可物件の場合、隣接地権者等から用地の取得

あくまでも費用対効果が合い、過剰なリスクテイクとならない前提なので、現実的に施策は限られますが、やるやらない別にして検討自体は行うべきです。。

売り出し条件

所有者の状況、売却査定額、物件特性、想定顧客、競合物件、バリューアップを総合的に判断して売り出し条件を決めます。
売り出し条件は価格以外に、古屋がある場合に解体して引き渡すか、契約不適合責任の負担の有無、有の場合の担保期間、境界確定の有無、私道の場合の共有者からの同意、越境がある場合の覚書取得の有無等があります。
買い手候補との条件交渉で価格だけを論点にする方が(不動産会社にすら)多いですが、上記のような比較的重要度が高いものは価格と一緒にパッケージで決めないと、契約締結までに交渉が二段階となり、買い手との交渉疲れによる信頼関係の破綻が生じやすくなります。そういったことを防ぐ上でも売り出し時点からスタンスを決めて提示しておくべきです。

媒介契約

不動産会社に販売を依頼する場合は媒介契約を締結します。

依頼先は、広告掲載量が多く、知名度がある不動産会社であるに越したことはありませんが、近年は不動産検索サイトポータルサイトがメインで、ポータルサイトに何一つ加盟していない不動産会社はまずありません。また、不動産会社が知名度が高くても、不動産取引はまだまだ担当者自体の属人的能力に依存する割合が高いので(そこを抜け出すべく現在各社試行錯誤中)、あまりにも知識や経験が低い、人間性が軽薄、時代錯誤な担当者では、どんなに知名度の高い不動産会社に勤めていても買い手や買い手側の不動産会社から信頼を得られませんし、売り手の売却目的や都合を汲んで適切にアドバイスしてくれたり、ましてや実効性のある販売戦略の立案なんてできないでしょう。

つまり依頼する人物はよくよく見極めましょう。

特に、不動産会社による媒介契約の説明は一般、専任、専属専任の3種類の媒介契約の相違点が強調されるので、そこが論点になることで、最重要な担当者自体のチェックがおろそかになりかねません。専任や専属専任が売却の成否を握るのではありません。むしろ適切な人選が行えれば三種類の媒介契約の差異なんて些末なことです。

私見ですが、担当者が信頼に値し、実効性のある販売戦略を実行してくれるのであれば、お互いの紳士協定として一定期間の専任媒介を依頼するくらいの売り手から不動産会社への配慮があってもいいと思います。なお、専任媒介、専属専任媒介でも共同仲介はできるので、買い手の窓口となる不動産会社はその一社に限定されず、他の不動産会社の顧客にも情報を伝えることは可能です。

広告、集客

不動産の広告や集客は下記のようなものがあります。

【ネット】
・不動産検索ポータルサイト(athome、homes、suumo)
・レインズ(不動産業者専用物件情報ネットワーク)掲載
・ネット広告(GoogleやYahooのリスティングやディスプレイ広告、FACEBOOKやTWITTERといったSNS広告)

【リアル】
・現地看板
・チラシ投函
・新聞折込チラシ
・住宅情報誌
・隣接地等の所有者に直接商談

【事業者向け】
・不動産会社に一斉FAX、メール
・ハウスメーカーに一斉FAX、メール(土地の場合)
・不動産買い取り業者に直接商談

現時点では不動産検索ポータルサイトが主流なので、なるべく想定顧客にアピールできるよう写真や間取、説明を工夫して入力するのが重要です。
また、共同仲介の窓口としてレインズも重要ですので、しっかり掲載がなされているか、万が一にも囲い込みがされてないか確認しましょう。
※囲い込み…元付業者(売り手が依頼した不動産会社)が買い手からも仲介手数料を受領する両手仲介をするために他の不動産会社に物件情報を紹介しないこと。共同仲介が行われないので買い手が限定されてしまう。

検証

物件の販売を開始して1ヶ月すれば、だいたいの手応えはわかります。また、未成約のまま3ヶ月経過となれば当初の販売戦略の検証をした方がいい頃となります。

物件販売ページの閲覧数、顧客や不動産会社からの問い合わせ数、物件を案内した際の顧客の反応等から販売戦略の妥当性を判断し、改善が必要と判断すれば、プロモーションの訴求ポイントや掲載媒体を変えたり、物件の商品性を上げたり、販売価格を下げることを検討します。

しかし、成約してないからといって、物件ごとに特性や想定顧客が大きく異なるのですなわち戦略が不適当だったとは言い切れませんし、ページ閲覧数や問合せ数をもって販売戦略の妥当性を判断するには限界があります。一つしかない不動産を一人の顧客が買うかどうかの予測は究極的に無理なのです。

また、仮に販売戦略が妥当ではないにしても大きく変更する余地は不動産である以上あまりありません。物件の商品性の変更はこの期に及んでまず現実的はありません。

むしろ、販売価格を下げる判断をする上で、やるべきことをやったのかを検証するという方が実態に近いかもしれません。

契約、引渡し

めでたく買い手が決まれば契約書類を作成し契約手続きを行い、登記手続きや、買い手の融資を含めた決済金の準備等が整えば代金支払い・物件引渡しとなります。
契約と引渡し手続きの大部分は事務的なものですが、多くの不動産にまつわる紛争の多くはこの手続きの詰めの甘さにより生じます。リスク管理上重要項目ですが、営業は得意でも事務手続きは苦手な不動産会社の担当者は結構いて、買い手の窓口が彼らで売り手には見えない分、より担当者の人選が重要です。
媒介契約時点で担当者の事務的能力も含めて見極めるとともに、契約手続きになると社内でチーム制を取ることが多いので、そういった体制等も確認しておくべきでしょう。

まとめ

近年は個人同士が仲介者を挟まずに売買できるインターネットサービスも出てきているので、本記事等を参考に直接売買を行うこともできますが、

ある程度の価格以上になってくると、買い手自身がプロといった売買でなければ、取引での専門性の補完と、リスクの減少の観点からプロの仲介者に依頼するのが現代ではまだ一般的だと思います。

それなら、売却の方向に定めたのであれば、その後のプロセスを熟知することより、不動産会社に全部任せた方がコスパがいいと思うかもしれませんが、売り手にある程度の売却に関する知識がなければ良い担当者かの見極めができません。

不動産会社の担当者の中には、売り手の知識が低いとみると、売り手の利益を考慮せず、付き合いのある不動産買い取り業者に安値で叩き売って、その見返りに再販時にまた取引に入る一粒で二度おいしい取引に誘導する輩もいます。

皆様の適切な判断によりよい取引ができることを祈念します。

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shiro-shita

仙台在住の”不動産コンサルタント” 就職超氷河期世代かつリーマンショックの直撃を受けたりと時代に翻弄され不動産会社を転々。苦く、しょっぱい経験に裏打ちされた不動産スキルはある意味ではリアルそのもの。

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