実例紹介

アパート1棟建てちゃいました vol.2

アパートを生かすも殺すもプラン次第

前回に引き続き新築アパートのプロデュース記録です。

前回の記事:アパート1棟建てちゃいましたvol.1

コンセプトをもとに具体的にプランニング

アパートのプランニングは準備期間中(古アパートの立退き・境界確定)に少しずつ進められました。

生活をバックアップし、継続的資産性を有し、自宅とハーモナイズするアパートを作ることが目的ですが、そのためにプランの具体的要件を下記としました。

①メインはファミリータイプ
立地が住宅地の奥地で、駅や大学・専門学校は近くにないので、学生や独身サラリーマンには向いていませんが、買い物施設に学校、病院といった施設は豊富で、かつ、静かで自然もあるのでファミリー向きな立地です。

②サブでシングルタイプ
ある程度の収益性を確保する観点からシングル(またはディンクス)タイプも必要です。また、全体の部屋数は多い方がスケールメリットがでます。

③実用性のある間取
昨今、他社が量産しているLDK8畳+洋室3畳の”名ばかり1LDK”は居住性が低く将来の入居者獲得に不安があります。極力、実用性を重視したプランで差別化を行い、かつ、入居者のエンゲージメントを高め長期安定収益を狙います。

④駐車場全室分確保
ファミリータイプがメインであれば敷地内駐車場が各部屋1台分は必要です。

⑤1室はオフィス
最も自宅よりの1階部分を私がオフィスとして使用します。
ただし、いつかは事業をクローズするときがきて、そのときは当該部分を第三者に貸し出しますが、オフィスとしての需要は低いので、住宅へのコンバージョンが必要です。住宅へのコンバージョンを想定したプランが望ましいです。

⑥北側の景観を生かす
敷地南側は私道があり隣地との距離はある程度取れていますが、高低差があるため日照はイマイチです。対して北側は河川で、その向かいは空き地や公園があるので、北側の開放感を活かした方が立地のポテンシャルを引き出せるはずです。

⑦合理的構造の追求
複雑な形状の建物はコストが高上りで構造的に脆弱でメンテナンス性に劣ります。なるべく出隅・入隅のないシンプルな形状にし、内外の壁の位置を揃えるべきです。また、外部導線を工夫し共用部分が無駄に大きくならないようにし、室内の水回りも集約させるに越したことはありません。

 
上記要件を満たすにはどのようなプランがいいでしょうか?

 
できあがったのはこちらのプランです。

様々なプランニングか可能だと思いますが、私は3年間考え続け、10以上の案を書いた挙句、上記プランに落ち着きました。

 
私は建築士ではないのでプランに一部法的に引っ掛かるところがありそれを修正したり、細かい寸法の調整は行いましたが、ほぼ私がプランニングしたまま出来上がりました。
(斜線制限に引っ掛かっていますが建築会社さんの取り計らいで天空率を使っています)

 
自分なりには①~⑦までの要件はとりあえず満たしたつもりです。特にハズレの間取・捨て部屋を作らないために、すべての部屋をそれなりの広さ、形状にすることには苦心しました。

収納は豊富といっていいのではないでしょうか。自分が住む家なら収納はあえて設けず、ライフステージに合わせて家具やパーテーションで仕切りますが、賃貸住宅であれば固定してあった方が無難でしょう。

プランを最終判断する際、最も根本的なことですが、このような3階建て8室か、2階建て6室のどちらがいいか悩みました。実は最初はもっと部屋数が多かったのですがプランニング過程で縮小していきました。6室プランは具体的に図面を引いたり、見積りを取ったりしていませんが、それはそれでいいプランになったと思います。

もちろんすべてが自由ではありません

法規制等により修正を余儀なくされた箇所がいくつかあります。

まずはバルコニーです。3階ともすべて南側がバルコニーになっていますが、1階はいいとして、メゾネットの2~3階はどっちか一方のみが良かったのですが、避難上の理由で設置がマストでした。

3階北側は設置義務はありませんでしたが、2階共用廊下上部のスペースが余りました。真っ先に思いつくのはその分、部屋を広げることですが、規制でできず、また、単に屋根にするのであれば建築価格的にほとんど変わらないのでバルコニーにしました。バルコニーばかりあっても使い切れないでしょうが、この物件のアピールポイントの一つは北側の開放感ですし、エアコン室外機の設置も容易になります。

 
オフィス掃き出し窓下部の犬走も設置がマストでした。これがあることでの日常的なメリットは何もなく車の展開時に邪魔になるのですが、こちらも上階からの避難上の理由です。オフィスにバルコニーを付ければ設置を回避できますが、バルコニーがあると日照が遮られますし、大きな荷物の出し入れが不便になるので、オフィスは自分で使う前提もありこのようにしました。

 
エントランスアプローチはできればインターロッキングとかで装飾したかったのですが、法的規制ではありませんが、新設するゴミ置場からの収集にあたり車両展開スペースの設置を求められ、エントランスアプローチ部分をその用途にあてました。

実は事前協議の段階で一度は経路の道幅が狭いという理由で環境事業所にゴミ収集を断られました。

ゴミ置場は多くのアパートオーナーにとって設置面積や費用負担から”嫌だけど作らざるをえないもの”で、それを断られたのであれば渡りに船と思うかもしれませんが、私としては必要なものでした。というのは、エリアのゴミ置き場は結構遠く、また、利用者数に対して狭いので、さらに利用者が増えることを町内会から良く思われないことが想像できたからです。

そこで環境事業所と交渉したところ、経路上にある石碑の移設、ミラーの設置、そして展開スペースを設けることを収集の条件とされました。石碑とミラーについては第三者の協力が必要でしたが無事に了解を取り付けることができました。

実はこだわった外構

多くのアパートにとって外構はあまり論点になりません。外構にこだわっても賃料はほとんど上げられませんし、そもそも最有効活用しようとすると土地が余りませんので、せいぜい駐車場とアプローチ程度です。
(業界最王手の高付加価値商品は植栽の見せ方にかなりこだわってはいますが)

しかし、私にとっては自宅とのハーモナイズ、継続的資産性の観点から外構は重要でした。

隣地の河川は藤川といい、ごくごく近所の人しか知らないマイナー河川で、普段は流れているのがわからないくらいの水勢・水量で、水路に毛の生えた程度のものです(実際、河川としての起点は土地の西端から100m以内で、それよりも上流は水路扱いになっています)。

しかし、大雨時は様相が一変し、短時間で濁流と化します。

昔は雨が降るとゆっくり水位が上昇し、雨がやんでも数日は水位が高い状態でしたが、近年は水位が急上昇し、雨がやむとほんの数時間で元に戻ります。宅地化・コンクリート化により、雨水は適当に地面に浸透するものではなく、側溝に集水した上で河川に流すようにしたからなのでしょう。

実際に2019年令和元年東日本台風の際に河川から水が溢れるということがありました。堤防が決壊したのと違い、薄く広がるだけで床上どころか床下浸水にもなりませんでしたが、備えるに越したことはありません。

そこで、河川護岸が低く水の侵入の可能性がある部分にコンクリートブロックで壁を作り、それでも万が一それを越えてきた場合(もしくは通常の降雨の敷地内排水は)その先の河川に戻るようにし、さらにそれを越えてきた場合は敷地南東にある下水・雨水桝(合流式処理区域)に集水・排水できるよう敷地に勾配を付け、舗装アスファルトは浸透式としました。

竣工・満室稼働

そのような経緯で、2022年7月に建築請負契約を締結し、9月に着工、そして、2023年3月下旬に竣工しました。

隣接の河川工事が偶然同じ時期に重なり、一部用地を提供した関係で年度内の竣工が危ぶまれた時期もありましたが、建設会社さんが役所とうまく調整してくれました。

 
それで、竣工と同時に満室予約となりました。

私としてやっとほっとした瞬間でした。

正確に言うと、満室の予約が入ったときというより、募集を開始して多くの問い合わせが入ったときに、ちゃんと世の中にニーズがある商品れたとの手応えがあり、喜びと安堵で満たされました。

その後、賃貸借契約の締結、物件引渡し作業に忙殺され、ほっとした瞬間は文字通り一瞬でしたが。

 
賃貸物件のプロデュースはサラリーマン時代を含め何度か経験がありますが、今回ほど主導的ポジションでかかわるのははじめてです。

貴重な体験であり、結果の良し悪しが私の人生に大きく影響を与えるので、私の知識、経験を総動員して臨みましたが、業務量がヘヴィ過ぎてごく一部ではありますがやっつけ仕事になった部分もありました。

完成してまだ日が浅いということもあり、今のところはまだ反省点・失敗点というほどのものはありませんが、今後ポツポツと出てきて、後悔と自責の念に苛まされることでしょう…。

 
今はプロジェクトを終えたばかりで創作意欲はしばらく沸きそうにもありませんが、いつの日か今回の反省・失敗を活かすときが来るのではないでしょうか。

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shiro-shita

仙台在住の”不動産コンサルタント” 就職超氷河期世代かつリーマンショックの直撃を受けたりと時代に翻弄され不動産会社を転々。苦く、しょっぱい経験に裏打ちされた不動産スキルはある意味ではリアルそのもの。

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