不動産知識・テクニック

【解説】不動産活用の検討プロセス

複数の活用プランをシミュレーションして比較する

例えば、
「マンションの借主が退去した」
とか、
「空家を相続した」
みたいな場合、

往々にして、
「これまで賃貸に出していたからまた新しい入居者を見つけよう」
とか、
「もう住むことはないから売ろう」
といった感じで方向性を決めがちです。

そのような直感的決め方であながち間違いはありませんが、

不動産活用の適切な検討プロセス・・・・・・・・・に則ってはいません。

 
不動産活用の適切な検討プロセスでは、賃貸や売買その他の活用案をそれぞれシミュレーションし比較検討の上で方向性を決めます。

不動産は個人や中小法人にとっては資産の要でライフプランや経営に与える影響が大きいのでそのくらい慎重に決定すべきです。

本記事はその適切な検討プロセスの解説となります。

 
ちなみに、本記事は不動産はあるけど活用方法が決まっていない遊休不動産を主眼にしています。なので、金銭的な事情があり不動産を売らざるを得ないとか、終活で資産を処分するといった目的先行の不動産活用にはそぐわない部分はありますが、遊休不動産の活用と目的先行の不動産活用には明確な境目のないグラデーションであり、結論が見えた中での一応の検討であっても、やはり資産の要の不動産であれば思わぬ落とし穴を避ける上でも(省略しながらも)プロセスを踏む、そうでなくても少なくとも考え方は理解することをおすすめします。

まっさらからの不動産活用をとりあえず不動産会社に依頼してはならない

慎重に決定すべきとはいえ、
賃貸や売買その他の活用案をそれぞれシミュレーションは一般の人にできるのか、無駄な労力掛けた上にめちゃくちゃなシミュレーションする危険性があるので、さっさと不動産会社に相談した方がいいのでは?
と思う方もいるでしょう。

残念ながら、とりあえず不動産会社に相談はリスキーです。

なぜなら

  • 賃貸にも売買にも精通している不動産会社の担当者の割合は少ない(多くの会社では売買担当と賃貸担当にわかれている)
  • 賃貸と売買どちらにも精通していても売り上げが高い売買に誘導しがち
  • よっぽど価格が高い物件でなければ賃貸と売買の両方をシミュレーションするまでの労力を割かない

なので、だいたいこんな感じになります。

【パターン①】
所有者「賃貸と売買で決めかねていて…」
不動産会社「どちらがいいでしょうか?」
所有者「うーん、どちらかといえば賃貸でしょうか」
不動産会社「それでは賃貸の相場を調べます」

【パターン②】
所有者「賃貸と売買で決めかねていて…」
不動産会社「この物件なら断然売買をおすすめします!ちょうど私のお客様でこの辺で物件を探している人がいて…」

 
不動産会社の対応酷っ(怒)と思うかもしれませんが、大半の不動産会社の利益構造的にそのようなインセンティブが働く以上それを嘆いたところで仕方ありません。むしろ、そういった利益構造を理解した上で、自衛しながら自分の必要な情報が得られるよう立ち回るのが現代的賢人の在り方です。

というか、どのようなプロセスを踏めばいいか以降記載していきます。

不動産活用検討プロセス

STEP1 5つの活用方法

そもそも不動産の活用方法には全部で5つあります。

  1. 自分で住む・使う
  2. 売却
  3. 土地として賃貸(貸地、駐車場など
  4. 建物として賃貸(アパート、貸家、貸事務所など
  5. そのまま何もしない

5の何もしないは活用ではないだろうと思うでしょうが、地価の上昇局面等で現実的にはよくあるケースです。
ただし、具体的かつ積極的な活用をしようと検討する段に至っては、まず除外される方法です。
というか、1もその予定もないから活用を検討しているケースがほとんどのはずです。
また、まだ十分使える建物であれば、それをわざわざ取り壊すよりその建物を生かすでしょうから4も消えます。もしくはボロくてもすでに貸していたり、建物がアパートの場合も4です。

このように1~5の中でありえない活用方法を除外していくと、まだ使える建物がある場合は2つ、建物がない、もしくはあっても到底使い物にならない場合は3つとなるはずです。

つまり、下記のどちらかです。

  • 戸建や区分所有マンションといった建物がある:2売却・4建物として賃貸
  • 土地もしくは古屋付土地:2売却・3土地として賃貸・4建物として賃貸(新築)
STEP2 売却査定


(売却査定の例)

建物がある場合でも土地(古屋付含む)の場合でも、売却は活用候補の1つです。

売却をシミュレーションする上では予想される売却価格を査定し把握します。

売却価格の把握は、自分の所有物なので重々承知という方や、自分で調査できる方はいいですが、そうでない方はどうすべきかと言うと、

不動産会社に査定を依頼すればいいでしょう。

とりあえず不動産会社に相談はリスキーと前述したことと矛盾しますが、売却価格に限定すればその方が手っ取り早いです。

ただし、注意点があります。

依頼する際に必ず下記を確認しましょう。
「現時点では売るとは決めてなく、賃貸等の別の活用をするかもしれません。比較検討する上での査定となりますが、こういった条件でもよろしいでしょうか?」

この条件を呑めない不動産会社への依頼は控えましょう。その場合、別の不動産会社に依頼すればいいのです。不動産会社なんてたくさんあります。

なお、一番注意しなければならないのは、一旦その条件を呑んだのに、実際に依頼がないとしつこく勧誘してくる不動産会社です。当社は自分に都合の悪い約束は守りませんと言っているようなものなので今後一切の連絡を絶って不都合ありません。

 
また、
「当社は賃貸も取り扱っているので、よろしければ売買と賃貸の両方を査定しましょうか?」
と逆に提案されることもあるかもしれません。

この場合、一旦は片方だけにしましょう。

相手は善意で言ってくれている場合もありますが、万が一、悪意で売買に誘導する場合だとどちらの査定額も信ぴょう性がありません。善意か悪意かの見分けは難しいので、よっぽど信頼している不動産会社以外はそもそも余計なバイアスが掛からないよう片方のみの依頼にすべきです。

 
そして、査定が出た際の説明で、
「今このタイミングこそ高値売却のまたとないチャンスです!」
とか、
「当社には他社にないノウハウがあるので他社より高く売れます!」
みたいなアピールがあまりにも強い場合も要注意です。

知りたいのは適正な売却査定額です。そういった不動産会社は売却の依頼を受けるために査定額を盛っている可能性が高いので、別の不動産会社にセカンドオピニオンを求めるべきです。

STEP3 賃貸査定


(賃貸査定の例)

次は賃貸です。

賃貸の査定は、
建物があればそれを賃貸
土地ならそのまま土地として駐車場や貸地として賃貸
もしくは土地にアパート等を建てて賃貸

それぞれ予想される賃料を査定します。

 
既存建物、駐車場または貸地、アパートとしましたが、可能性は無限にあります。

既存建物も住宅から店舗にコンバージョンした場合はどうなのか、
土地を貸すにも資材置き場的なものから店舗や住宅の敷地となり一度貸したら何十年も帰ってこないような貸地もあり、
新築候補はアパートに限らず、店舗や老健施設やロジスティックスと様々な賃貸用建物があります。

本記事ではいくつかの活用方法を比較検討することを推奨しているので、その不動産の可能性を最大限探る上では、少しでも可能性があればなるべく多くの活用方法を検討した方が精度は高まりますが、この検討プロセスはあくまでも売る、建物として貸す、土地として貸すといった大枠の方向性を決めるもので、店舗にコンバージョンとか、アパートより老健施設がいいとか詳細な活用方法はその後となります。なので、可能性がゼロではないなと思っても、一旦は、既存建物があればその賃貸、土地なら駐車場とアパートみたいな感じで代表的な候補のみに絞るべきでしょう。

 
賃料の査定の仕方ですが、

一般住宅をそのまま貸家にするくらいなら不動産会社に聞けばすぐ出してくれるでしょう。

駐車場の場合、何台停められるか数え、相場の駐車料金をあてはめます。進入路や駐車のための切り替えしスペースを考慮しないとならないので、土地の面積で機械的に出せるものではありませんが、そんなに難しくはないでしょう。

問題はアパート等の新築計画の場合です。土地の形状や道路付けからしてどんな部屋数、間取のアパートが建てられるかを検討します。とりあえずこのフェーズではネットに転がっているアパート規格プランみたいなものの中で、間取りや駐車場台数が市場ニーズにかなっていて、なおかつ、土地に収まるものを探し、その部屋ごとの想定賃料を合計してみてはいかがでしょうか。ネットにある規格プランにスケールが入っていない場合、洗面所や浴室やトイレといったおおよそサイズが推測できるところから比率で求めましょう。

もちろんアパートメーカーにプランニングを依頼すればやってはくれますが、それなりの作業量なので、最初に別の方向性になる可能性があると断りを入れても、さすがに断りにくいというか申し訳ないです。鉄メンタルに自信があればそれでもいいですが、その場合、不動産会社を介して依頼するとバックマージン分建築費が上がり適正な建築費を把握できないこともあるので注意です。(今の時代に簡単に無料でプランニングしてくれるアパートメーカーは大手でそもそも建築費が高いですが、それがさらに上乗せされます)

STEP4 貸すまでに必要な費用と貸している間に掛かる経費の算出

ここまでもそんなに簡単ではなかったかもしれませんが、さらに難易度が上がります。

既存建物
賃料以外にも下記の費用を見積ります。
・貸すまでに必要なリフォーム費用等
・貸している間に掛かる経費

既存建物をそのまま貸せることはあまりありません。

私物があれば移動や処分をしたり、傷んだ壁紙や床を張り替えたり、トイレや洗面化粧台を入れ替えたり、塀がさを壊して駐車場を増台したり、ほとんどそのままいける場合でもハウスクリーニングくらいは必要でしょう。それら費用の概算を把握します。

そして、貸している間に固定資産税、保険料、賃貸管理料、清掃や等のメンテナンス費用、入居者入れ替え時に不動産会社に払う契約手数料、不動産所得税はどれくらい掛かるかも見積もる必要があります。固定資産税は現時点の金額がわかるからまだしも他はどうやって調べればいいかわからないと思いますが、ネットで検索して記事を読み込めば概算方法が載っていたりします。

また、賃料査定はしましたが、その賃料でずっと切れ目なく入居し続ける訳ではありません。需要が低い物件であれば空室の期間が長引いたり、そうでなくとも入居者の入れ替えである程度の空室期間は発生するので、シミュレーション期間中、空室期間を考慮した稼働率で収入を見積る必要があります。

駐車場や貸地
同様に貸すまでに必要な費用と、貸している間に掛かる経費を見積ります。

貸すまでに必要な費用は古屋付であれば解体費用、現況が更地であっても整地砕石に区割りは必要です。雨の日にずぶずぶにぬかるむものは駐車場を名乗ってはなりません。

貸している間の経費では、住宅古屋を解体して駐車場だと建物の固定資産税はなくなっても、土地の固定資産税が上がるので注意です。

また、駐車場も常に満車は望めないので稼働率を考えて収入を見積ります。

アパート新築
こちらも同様に貸すまでに必要な費用と、貸している間に掛かる経費を見積ります。

アパート建築費用、設計費用、外構工事費用等に、金融機関から融資を受けるでしょうから融資手数料や所有権保存や抵当権設定登記費用等が貸すまでの費用となります。

貸している間の経費の基本的な考え方は同じですが、金利負担や減価償却費を見込んで不動産所得税を計算するのでけっこう複雑で難易度が高いです。頑張ってください。

STEP6 収支シミュレーションして比較




(シミュレーションの例)

これらの数値をもとに10年とか20年の期間のシミュレーションを行い各年のキャッシュフローや通年での収支を計算します。

収支 =(賃料査定額×稼働率)- 経費(貸している間に掛かる経費の合計)

 
ここで重要なことですが、

既存建物ならリフォーム費用、駐車場なら整地費用、アパートなら頭金といった貸すまでに掛かる費用を何年で回収できるかを見るのではありません。

新たに投下する金額に加えて、売却査定価格も投下されている前提でシミュレーションします。売却査定が3000万円なら売れば3000万円のキャッシュを取り出せるということです(実際は売買の仲介手数料等がかかり手取りは異なりますが)。

売却と既存建物とを比較するなら、不動産を売却して今キャッシュを取り出すか、それともリフォームの再投資をして賃料で回収していくのか、
売却と駐車場とアパートを比較するなら、同様に売却してキャッシュを取り出すか、駐車場として整地等の再投資して駐車料金で回収していくか、アパートとして頭金を再投資して元利返済しながら賃料で回収していくのか、
それぞれ比較します。

トータル収支 = -(売却査定額 + 新たに投下する金額) + 1年目の収支 +2年目の収支 + 3年目の収支 + ・・・ + 最終年の収支

 
もっと厳密に比較するなら、リフォームなり駐車場なりアパートなりで再投資した場合、10年とか20年の再投資期間が終了した後に売却する前提でシミュレーションします。

将来の売値が今とあまり変わらなければ、再投資してインカムを得た上で売却した方がトータルの収入は有利でしょう。(ただし、その場合、将来の売価の予測が難しいのと、10年後の10万円は今の10万円より価値が低いのでDCF法で現在価値に保守的に割り引いて比較する必要があります)

逆に再投資金額の割に賃料が取れないとか将来の売却が難しくなりそうなエリアであればリスクを取って再投資することが合理性がないと判断されるかもしれません。

もっと厳密なトータル収支 = -(売却査定額 + 新たに投下する金額) +DCF法により現在価値に割引く( 1年目の収支 +2年目の収支 + 3年目の収支 + ・・・ + 最終年の収支 + 将来の売却価格 – 将来売却するときの融資残債)

 
なお、これまでは収益最大化を念頭に置いて解説しましたが、誰しもが収益最大化が最優先ではありません。相続税対策や相続による分割対策だったり、収益性よりも煩わしくないことを求める方もいるでしょう。むしろ、純粋に収益最大化だけが目的という方は少なく、煩わしくない範囲で収益化を図り、相続時に子供たちが揉めないようにしたいみたいな複数の優先順位が異なる目的があるでしょう。

それでも検討プロセスは本記事に従うことを推奨します。比較プランのシミュレーション出した上で、優先順位を付けた複数の目的にどれだけ適っているか自分なりの尺度でスコアリングし判断すべきです。

 
ただし、これまででわかったと思いますがシミュレーションはなかなか高度です。なので、比較するまでもなく明確な方向性をだせるのであれば、考え方は理解した上でプロセスの一部(もしくは全部)を省略してもいいかもしれません。

方向性に迷った方や自信がない方、もしくは自分はこれだと思っても周囲から反対された方は是非プロセスに則って検討しましょう。

まとめと営業

是非と言われても、手順だけで細かなやり方にほとんど触れずにネットで調べてではできる気がしないかもしれません。

不動産会社をうまく使い倒してやり遂げる方法もありますが、前述の通りリスクはあります。

どうすればいいでしょうか?

 
手前ミソですが、

当社であればお客様の目的に沿った比較シミュレーションを承ります。(エリアの制限はありますが)

 
「何だよ営業かよ!」
「お前に依頼するのもお前なりの利益構造に絡み取られるリスクがあるんだろ!」
と思うでしょう。

確かにその通りです。当社も民間の株式会社で利益がなければ存続できません。

ただし、不動産会社にリスクがあると言いながら、実は同じ穴の狢の当社に誘導するほどは性根が腐ってはいません。

 
当社は下記はお約束します。
・本記事のプロセスに従ったシミュレーション作成は無料で行います。
・当社に有利な方向への誘導は行いません。

 
その上でですが、もし、当社がお役に立てば、

当社を推していただければ幸いです。

 
「推す」ってのは強制で何かしなければならないということはなく、あくまでも御好意の範囲で構いませんが、

売却とか賃貸とかする場合に当社に依頼してくれたり、
Googleの口コミで高評価してくれたり、
お知り合いにいい不動産会社がいると紹介してくれたり、
将来、不動産にかかわるニーズが生じた際に思い出してくれたり、

できる範囲、無理ない範囲で構いませんのでよろしくお願いしますm(__)m

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shiro-shita

仙台在住の”不動産コンサルタント” 就職超氷河期世代かつリーマンショックの直撃を受けたりと時代に翻弄され不動産会社を転々。苦く、しょっぱい経験に裏打ちされた不動産スキルはある意味ではリアルそのもの。

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