貸し手

不動産会社に依頼した入居者募集が決まらないときにやること 不動産オーナーによる物件マーケティング戦略の検証その2

前回に引き続き、オーナー自らによる物件マーケティング戦略の検証方法について解説します。

不動産オーナーによる物件マーケティング戦略の検証

マーケティング戦略の検証【プロモーション】

今回は物件のマーケティング戦略検証のプロモーション編ですが、最善のプロモーション方法は物件次第で異なるので、逆に普遍的ダメな例を上げていきたいと思います。

大手ポータルサイトのどれにも掲載されていない

一般向け広告媒体にはインターネット(ポータルサイト、自社サイト等)、紙面広告(新聞、住宅情報誌)、店頭広告(窓面掲示、顧客配布用チラシ)等がありますが、最重要はポータルサイトです。その中でもアパートやマンションならSUUMOとATHOME、HOMESがとりわけ重要です。

3つのうちどれにも掲載されていないというのは論外のプロモーションでしょう。

いくら店頭の目立つところに掲示していようが、主要ポータルサイトになければ話になりません。

間取り図見る気になりますか

図面のスキャンしただけ、ひどいものだとスマホで撮影したものをそのまま載せています。

顧客に見ていただこうという心配りが感じられません。

きっと問い合わせしても雑な対応や、現代的ではない対応をされそうです。

こちらは間取図が作成されていますが床の色適当すぎはしないでしょうか。

確かにそんな細かいことまで突っ込んでくる顧客はまずいませんが、物件情報に求められる情報解像度は年々上がっています。

カーペットをフローリングと誤認させるような色味は論外ですし、どうせならなるべく実物に近い色を使うべきです。

逆映え写真

物件写真は多くの顧客にとって文書より重要な視覚情報を提供する重要なものであり、文書で説明がない情報を補完する役割もあります。

対象となる貸室だけではなく、エントランスから部屋に至る経路や、その他の共用部の様子がわかる写真も掲載すべきです。このような関連写真はこれまであまり重視されていませんでしたが、近年はこのような細部まで手を抜かない不動産会社が増えたことで、写真情報が不十分だと丁寧ではない印象を与えてしまいます。

そして、写真も掲載されていればいいのではなく

傾けすぎない
見下さない
見上げすぎない
フラッシュしない
画像サイズは適切に

あまりに写真としてのクオリティーが低いものは、綺麗な写真ばかりを見ている現代人にとっては殊更しょぼく映ります。

キャッチコピーはペルソナを意識していますか

キャッチコピーというかページ内で目立つテキスト情報、オススメコメント的な部分に

といった昭和な文言をいまだに何の疑問もなく使っている不動産会社がいますが、担当者の仕事に対する思い入れのなさや、実は物件を全然いいと思っていないという本心が透けて見えてしまいます。

市場ニーズを把握し、ペルソナをはっきり意識していれば何をアピールすべきか明白なはずです。

複雑すぎる料金体系

例えばこの物件、契約金と月々の支払額を計算できますか?

というか、多分、ほとんどの人は途中で諦めるどころか計算しようとしもしないでしょう。

料金体系が複雑過ぎます。

きっと何らか意味のあるお金なのでしょうが、複雑だとつい避けたい心理が働きます。

複雑さは悪なのです。

なるべくシンプルな料金体系を目指しましょう。

多額過ぎる敷金

確かにオーナーからしたら敷金が多い方が有利ですが、

原状回復のガイドラインが浸透し、賃貸解約時に敷金をそのまま返さなければならないケースが増え、ましてや家賃保証会社にも加入してもらうのに、そんな何ヶ月分も敷金が必要でしょうか。

店舗系だと保証会社の補償範囲がアパートやマンションほどではなく、夜逃げ率が高く、原状回復費用も高額になるのである程度の敷金は必要ですが、それでも12ヶ月分とかなるとさすがにどうかと思います。

借り手にとって初期費用の高さは大きなハードルになりますし、この時代でも高額な敷金を要求するオーナーは昭和の強気な感覚が抜けず、ずっと上から目線の対応が続くのではとネガティブな推測をされてしまいます。

共同仲介お断りの広告費

オーナーが依頼した不動産会社が一社だったとしても、その一社だけが借り手に物件を紹介するのではありません。共同仲介という、依頼した不動産会社を起点に他のすべての不動産会社が物件を扱えるシステムがあり、共同仲介を効果的に機能させ情報拡散にレバレッジを掛けることが、物件プロモーションの前提です。

そのために重要なのが広告費(AD)で、広告費は業者間の物件情報に記載されています。

(この場合は客付業者は借り手から受領する以外に賃料2ヶ月分の広告費がもらえます)

広告費はどれくらいが適当かは地域や競合状況により全国一律にいくらという基準はありませんが、広告費がなしで、しかも折半(借り手が払う手数料の半額をバックさせる)だと他業者に扱うなと言うに等しい条件です(地方都市は折半が多く、大手賃貸仲介の参入を阻んでいます)

(借り手が賃料1ヶ月分の仲介手数料を払うものの、客付業者はその半分しかもらえません)

もし、広告費がネックで物件情報の取扱いが阻害されているのであれば、広告費の支払いや積み増しを検討すべきですが、

広告費はオーナーからの手数料が原資なので、オーナーが出さないのに、不動産会社には出すように求めるのは流石に無理筋です。

逆に、オーナーは2ヶ月分出しているのに、依頼した不動産会社が丸々2ヶ月分取って、客付け業者にはなしとか、そもそも他業者に物件情報の紹介を拒んでいるならその会社は自分本位が過ぎるので今後の取引は見合わせるべきです。

まとめ 今は不動産プロモーションの過渡期

プロモーションのダメな例について解説しましたが、いい例というか、こうするのがプロモーションの鉄板というものまでは確立していません。というか年々変わってきています。

私はこの20年程度の間、不動産のプロモーションにずっと関わってきましたが、今は過渡期にあると認識しています。

顧客が物件を探す入り口は、昔は折込チラシとか現地看板からでしたが、今はほとんどポータルサイトに集約されてきました。そして、ポータルサイトは一時期は様々なサイトがローンチされましたが、近年は特にアパート、マンションについてはSUUMO、ATHOME、HOMESの主要3社の牙城が確固たるものとなりました。

今後は顧客がスマホで大手ポータルサイトにアクセスして候補物件を絞り、そのままスマホで契約手続きまで完結できるようになるのが進化の既定路線だと言っていいでしょう。

しかし、それにはまだ不完全な部分があります。

ポータルサイトは画一的なフォーマットなので、その中で顧客に向けて商品の良さやコンセプト等を伝え切るのには限界があります。結局、ポータルサイトの情報だけで顧客は決めきれず、不動産会社に行ったり、現地を見に行ったりして情報を補完します。ネット社会の進展により、誰もがSNSやYOUTUBE等に画像や動画を上げることができる時代になり、そういったネットコンテンツでポータルサイトでは伝えきれない物件のより深い情報を提供することは技術的には不可能ではないのですが、そのような深い情報の提供を不動産会社の採算ベースに乗せること、そして、ポータルサイトの閲覧者なり、もしくはポータルサイトの検索で漏れたものの潜在的にはフィットする顧客に、自然にシームレスにそういった情報を届けることがまだ発展途上です。

今後、不動産業界のみならず、広告やIT業界のプレイヤー総出で様々な試行錯誤を行い、その中で道ができてくるのだと思います。

このように次世代の不動産プロモーションの在り方について必死にトライアンドエラーしている人がいる一方で、

単に前の賃貸条件がこうだったからと20年前の賃貸条件や間取図、写真を使いまわして不動産会社の窓面に貼るようなマーケティングとプロモーションを繰り返している不動産会社もいます。

そして、それはオーナーも然りです。

オーナーはアップデートしてなくても不動産会社が最新のやり方をしてれば大丈夫と思うかもしれませんが、不動産賃貸業はオーナーと不動産会社が二人三脚でやるものです。仮に不動産会社が最新でもオーナーが昔のままの感覚だとつまずいてしまいます。

賢明なオーナーであれば、当然、時代遅れな不動産会社には別れを告げて、不動産賃貸業を行うビジネスマンとして日々マーケティング戦略をブラッシュアップし、より強固なビジネスにしていくものと思います。

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shiro-shita

仙台在住の”不動産コンサルタント” 就職超氷河期世代かつリーマンショックの直撃を受けたりと時代に翻弄され不動産会社を転々。苦く、しょっぱい経験に裏打ちされた不動産スキルはある意味ではリアルそのもの。

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