交渉に欠かせない3つのJ(状況分析・譲歩・情)
前回、不動産の購入にあたり買い手候補と見做される以前にふるい落とされないために気をつけるべきことを記載しました。
【前回のブログ】条件交渉前にふるい落とされないよう買い手が気を付けるべきこと 不動産の買い手の最適化戦略①
もちろんこれでOKではありません。やっと交渉のテーブルに付けただけであり、ここからが本番です。
今回は売り手になるべく譲歩を引き出すための交渉のポイントについて記載します。
不動産購入における交渉のポイント
交渉のポイントを順に記載します。
【交渉におけるNG行為】交渉になったからといって態度を豹変させてはならない
前回の記事で、買い手は売り手よりも交渉力が強いと上から目線で接したり、売り手の価格の論拠を崩そうと買い手独自の不動産理論を披露したりすると、買い手候補と看做される以前にふるい落とされると記載しましたが、
交渉に入ったらそれが許される訳ではありません。
それではテーブルに付くために爪を隠していただけに過ぎません。
そんなことすると売主を怒らせて状況が不利になるだけではなく、仲介者の顔を潰すことになります。
【状況分析1】交渉力のバランスを見る
まずは冷静に自分と売り手の力関係を見極めましょう。
力関係といってもまだ交渉のテーブルについたばかりだからイーブンでしょ、と思う人もいるかもしれませんがそんなことはありません。
すると売り手が有利で売り手の交渉力は強いと言えます。
逆に、
それだと買い手の交渉力が強いと言えます。
交渉が始まる時点では売り手について情報が不足していると思いますが、仲介者に質問したり、自ら状況を推察し、なるべく客観的に把握します。もちろん正確に把握できるとまではいかないでしょうが。
お互いの力関係を意図的に見極めようとする人は不動産売買において少数派ですが、現実は売り手と買い手の力関係が対等ということより交渉始める以前にすでに差がついているもので、それを飲み込む前に交渉が終わるというケースが多々あります。
【状況分析2】どういったインセンティブが働くか
力関係が売り手が有利であれば、そのまま交渉を行えば、買い手は売り手の提示する条件に否応なしに応じるか、もしくは諦めて交渉を降りるということになります。
でも、それでは交渉ではありません。
(実際、不動産売買では交渉って程ではなく、細かな条件を確認する程度のことしか行われないことが多いですが)
ただし、だからといって買い手のこれまでの不動産売買の経験を披露して大物感を出すとか、売り手が弱気になるように物件のネガティブな要素を誇張するということではありません。
逆効果となり醜態を晒さないように、戦略的に望まなければなりません。
そのためには相手方や自分にどのようなインセンティブが働くかを考える必要があります。
一般的に売り手には
といったインセンティブが働く傾向があります。
ただし、案件ごとケースバイケースで優先順位や強弱があります。
交渉相手の売り手にはどのようなインセンティブが働くか、その中でも優先順位が高いものは何かを仲介者から得た情報等から推測します。
【状況分析3】仲介者のインセンティブ
仲介者にも当然インセンティブが働いています。基本的には話をまとめたいのですが、仲介の形態によって働き方が若干異なります。
仲介者が売り手と買い手の両方の仲介の場合(両手)
仲介者が売り手と直に接しているので売り手や物件の情報をよく知り物件の購入判断や交渉の戦略を立てやすく、
こちらを良い買い手と認識すれば、仲介者にとっての利益の大きい両手取引となるので売り手に積極的に買い手をアピールしてくれます。
反面、これまで売り手と接した時間が買い手との時間よりも断然長いので単純接触効果から売り手よりのスタンスになりがちであり、
買い手の希望条件がかなわず交渉から降りても仲介者は次の顧客を探すことはできても、交渉で売り手を怒らせてしまい仲介依頼を打ち切られると元も子もないのでギリギリの交渉をするリスクを取らない傾向にあり、
仲介者が売り手と買い手それぞれの条件の上限や下限を知っていると、本当はもっと有利な条件を引き出せるのに話をまとめることを優先してしまうことがあります。
仲介者は買い手だけを担当し、売り手には別の仲介者がいる場合(片手)
その仲介者は買い手が信頼できる等の理由で買い手が選任しているのでしょうから、売り手に都合のいいように情報操作される恐れがなく、
仲介者はこの物件&売り手に関わるのは一回限りで売り手に尽くすインセンティブはなく、対して買い手に対してはこの交渉が不調に終わったとしても別の物件を検討する際に機会があるので、買い手にコミットした対応が期待できます。
ただし、売り手の情報や交渉については、売り手側仲介者(元付)経由の情報で、元付のバイアスが掛かっていたり、経由する人が増えることでスピードと正確性が劣り、
仲介者が買い手のために一生懸命主張したとしても、元付にとっては片手取引で利益が少なく話をまとめようという意欲が少なければ売り手にまともに伝えるか疑わしく、
仲介者がそれぞれのクライアント(売り手・買い手)だけに接するので相手の真意や許容範囲が掴めず交渉が紛糾しやすくなります。
上記は一般的傾向であり、その仲介者の経験、人となり、業務への意欲、相手方の仲介者との相性によって千差万別です。はっきり言って仲介者のレベルはピンキリなので、中には自分にこういったインセンティブが働いていることすら考えず漫然と業務を行なっている人や、逆に己のインセンティブだけを考えて業務を行なっている人もいます。
買い手は一般的傾向を頭に入れながら仲介者の言動等に注意して、交渉における仲介者はどういった立場でどういったレベルで、そのようなインセンティブが働くか見極めます。
仲介者のレベルが低いと交渉のボトルネックになったり、そもそも交渉ではなく売り手の提示条件にのるかそるかの確認だけになったり、最悪は一旦条件を飲んだのにその後どんどん悪い条件が出てそれを押し付けられることもありますが、その仲介者が元付であれば基本的に買い手から替えることはできません。
【譲歩】交渉カード
売り手と自分の交渉力、売り手と仲介者に働くインセンティブを読み取ると、交渉の行き着く先はだいたい予想できます。
交渉カードはそれを少しでも自分に有利に誘導するものです。
ただし、繰り返しになりますがこれまでの不動産取引の輝かしい実績や、類稀なる価格分析能力は交渉カードではありません(誰でも知っているような不動産取引のカリスマや伝説の不動産鑑定士といったレベルであれば別ですが)。
交渉カードは売り手のインセンティブに沿いながら自分が譲歩できる項目であり、自分の譲歩により、相手の譲歩を引き出す目的で用いられます。
例えば、売り手がハウスクリーニングして引き渡すことが前提になっている物件で、自分が購入後に大掛かりなリフォームを予定しているのであればハウスクリーニングの条件は譲歩してもデメリットがないので、売り手のハウスクリーニングの費用や手間を免除する代わりに値引きを要求する、
とか、
売り手が取引を急いでいるのであれば、即金で払うので値引きを要求する、といった感じです。
特別な交渉カードがない場合は、後に詰める細かい条件を先出ししてまとめて提案すると、売り手にとっては買い手が譲歩したと錯覚したり、パワーバランスを考え直したりして、売り手の譲歩を引き出せることがあります。
売買価格、手付金の額、代金支払い時期、物件引渡しの状態、境界確定の有無、越境がある場合の取り扱い、売主の物件保証義務の有無や有の場合の期間等をまとめて提示するのです。
交渉期間の短縮にもなりますし、後から後から論点が出て不毛なやり取りになることも防げます。
【情】相手は合理的であるとは限らない
取引関係者がすべて合理的な選択をするのであれば、交渉はそれぞれの交渉力と交渉カードによって結論に達しますが、実際にはそのようなことは稀です。
取引は感情や偶然によって大きく左右されます。
なので、このままでは交渉を降りて購入を見送らなければならないのであればダメ元で希望条件を伝えてみるというのも手です。
特に売り手が買い手のことを人間として好意を持った場合は有利な条件を引き出しやすくなります。
その意味では買い手は誠意と熱意のある対応が欠かせませんし、可能であれば交渉前に会って挨拶をしておくと売り手の好意を引き出しやすくなります。
(その場では決して値引き交渉や物件についてのダメ出しを行なってはいけません)
逆に、買い手が交渉力が上だと売り手をガンガンに追い詰めると、売り手が態度を豹変させて物件の売却を取りやめることもありますので注意が必要です。
交渉力、交渉カード、仲介者のインセンティブ、買い手に有利な交渉の成立要件は高い…
以上が交渉のポイントです。
ただし、
買い手が交渉カードを駆使しても売り手の交渉力が強ければほとんど効果がなかったり、
本来はもっと交渉できるところを仲介者がボトルネックとなったり、
売り手が交渉力が高くないのにかかわらず頑として動じないということもあります。
なので、ポイントを抑えたからといって必ずしも効果があるものではありません。
特に、交渉力によらず売り手が頑として動かないということはよく起こりがちです。
なぜでしょうか?
(次回に続く)
shiro-shita
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