業界動向

不動産業界に向けに新サービスを検討する方のための”不動産業界構造”

不動産業界はガラパゴスなのか?

実は私は不動産業務の傍で株式会社ビザスク登録のエキスパートとしてたまにインタビューを受けています。

私にどんなインタビューのニーズがあるかというと、

不動産業界の構造です。

不動産業界向けに新サービスを検討している他業界の企業様が当たりをつける上でとりあえずインタビューするのです。

 
不動産業界はいまだにFAXを使っている

契約書はほぼほぼ紙で日付と住所と名前を何度も書かされる

 
それなら現代的テクノロジーの業務支援ツール等を提供すればいいのではないか!?

そう考えるのでしょう。

 
確かに不動産業界ではFAXと紙の契約書ですが、とはいえ、不動産業界関係者の多くが頭が硬く古いやり方に固執しているということではありません。

どのような構造かお伝えしたいと思います。

特筆すべく業界構造

業者数が多く、うち中小零細が占める割合が多い

宅地建物取引業者は2023年末時点で全国で約13万社あります。これはコンビニの倍以上で、しかも毎年増加傾向です。さらに業界全体の取引件数、売上も伸びています。

ただし、従業員数5名未満の業者が全体の85%程度です。私の肌感にはなりますが、大手から零細までの全ての業者の売上が伸びているのではなく、特に零細企業では業者の看板は下ろさないまでも現代のビジネス環境にほとんど対応できていない、取り残された業者がかなりの割合でいるのだと思います。

そのような取り残された業者はこれからバタバタと倒産するかというと、減りはしますが淘汰の波は急激ではないと思います。

不動産業は飲食店のようにナマモノを扱っておらず、家電ショップのように在庫をストックする必要もありません、多くは他人のものの仲介、管理という気楽な商売です。また、不動産業者は自社でアパートやマンションといった収益物件を持っていることが多く、仲介の売り上げがなくても存続できるところが多いのです。

業者毎の商圏が狭い

稀に全国対応を謳っている業者もいますが、不動産買取や市街地から離れたいわゆる負動産引き取りを行うごく一部の業者です。

全国に支店営業所を構える大手でも、例えば東北地方は数拠点で、それがすべて仙台にあり、そこから半径50km程度のエリアの物件しか扱っていないみたいな感じです。

それ以外の中小で、特に管理メインであればその地域だけを重点的に行なっているということが多いです。

売買では管理にくらべ引き受けエリアは広くとっている業者は多いですが、買い手は投資やリゾート物件以外、特に住宅に関してはその物件のごく周辺の方であることが多いです。

会社の広告をするにも、物件の広告をするにも商圏が限定的なのでネット広告よりもピンポイントでチラシをまくのがこれまで主流で、それがDXが遅れた要因でもあります。

ビジネスドメインが異なる

不動産屋のイメージとしては駅前に立地して賃貸物件の紹介をしてくれるようなところだと思いますが、実は不動産業者にはいくつかの形態があります。

  • 賃貸仲介
  • 売買仲介
  • 管理
  • ディベロッパー
  • 不動産買取再販(サンタメ)

業者によっては社内に複数の部門があり、さらに、建設や保険と言った隣接業界まで扱っているところもありますが、

賃貸物件を顧客に紹介するのと、マンション用地を探すのとでは業務にほとんど被る部分はありません。

また、ディベロッパーでマンション用地探すにも、不動産買取再販で物件仕入れるにもたいていは日々不動産会社をまわって売物件を収集します。同一業界内でのBtoB取引がかなりの割合を占めるのです。

共同仲介取引

賃貸仲介でも売買仲介でも大家(売り手)側と借り手(買い手)側にそれぞれ別の不動産業者が関わる共同仲介という取引があり、業者によっては取引のほとんどが共同仲介というところもあります。

共同仲介は様々な業者が物件を扱うことで成約率を高め、また、社歴が浅く顧客から直接仲介の依頼を受けていない業者でも物件を紹介できる優れたシステムです。

共同仲介のためにレインズという業者間専用サイトがあり、その中でFAXが活用されてきた経緯があり、現在でも全ての業者が使える通信手段としてまだFAXにも一定の合理性があります。

大家、売主のウェイトが高い

顧客というと借り手や買い手をイメージしやすいですが、賃貸仲介、売買仲介では貸し手、売り手はもちろん、相手方の仲介業者も顧客です。

むしろ、不動産業者間での獲得競争の熾烈さで言えば、貸し手、売り手の獲得の方が、借り手、買い手よりもハードです。

不動産業者の多くは、物件の貸し(売り)の依頼があれば借り手(買い手)はその物件で集客できると考えます。

いまいちに思えるポータルサイト、業務支援ツールが存続する理由


不動産業界向けによく検討されるサービスにポータルサイトや業務支援ツールがありますが、

新規サービスを検討している企業のご担当者様自身が借り手として物件を探した際の不便さから、使いやすいUIで高い検索性を備えた優良物件を見つけやすい(クソ物件を足切りする)ポータルサイトを構想するケースが多いですが、ポータルサイトに加盟してお金を払うのは不動産業者で、不動産業者にとっての最良のポータルサイトは、他では鳴かず飛ばずのクソ物件が決まるサイトで、良い物件は労せず決まるので広告に力を入れる必要がないと考えます。

また、例え優れたポータルサイトを作ったとしても今更感があります。携帯電話市場がdocomo、KDDI、ソフトバンクで占めている中に楽天が参入するようなもので、SUUMO、ATHOME、HOMESといったサイトが不動産業者、顧客にすでに浸透しており、新規ローンチしても物件数が少なければ顧客はアクセスしませんし、顧客がアクセスしなければ不動産業者も加入しません。何年間も不採算を覚悟し、それでもキャンペーンをやり続ける信念と体力が必要です。

 
業務支援ツールの場合、顧客管理や物件管理を社内全員で共有することを強みと謳うものがありますが、不動産業者としては共同仲介がスムーズにできるかが最重要項目となります。

同業他社とスムーズに物件情報をやり取りするには、他社が使っているツールとAPI連携できればいいというより、他社が使っているのと同じものを使うのが手っ取り早くて確実です。そうなると目新しくて機能豊富であるより、多少古めかしくてもシェアが一番高いものが選ばれることになります。

ポータルサイトや業務支援ツールの新規サービスは苦難の道だと思います。

尖った業者に尖ったサービスを

いまだにFAX使っているような遅れた業界だから他の業界で普通に使っているものが革新的に感じるのではないか、みたいな未開人的に不動産業界を捉えると多分うまくいきません。

不動産業界はこれまでの歴史の中でその都度合理的に判断していった結果、現在の状況に辿り着いたのだと思います。

その都度、その状況では合理的でも、長い目で見ればそうではなく、結果的にボトルネックが生じ業界の発展を阻害しているのです。それを解きほぐすのはちょっとやそっとのことでは無理です。

 
ところで、そんな不動産業界の古さの象徴だったFAXですが、実はここ最近はほとんど使わなくなりました。

加えて、特に大手は競って新サービスを導入し、顧客には現代的なユーザー体験、従業員には働きやすさをアピールしようと躍起です。

まともな業者はちゃんとアップデートしているのです。

このペースで行けば2030年にはFAXはおろか紙の契約書もなくなっているかもしれません。

 
その波に乗れず取り残される業者もいるでしょう、というか全国に万単位で発生するはずです。

そんな取り残された業者をサポートするニーズがあるのではないか!?と思うかもしれませんが、

そのような業者はこれまでそういったサービスを導入せず、アップデートを行ってこなかったから今の状況にあるのです。

自ら能動的に進化を選択できなかった業者が、今更になってサービスを導入したところで、これから競争を勝ち抜けるでしょうか。

 
そういった業者は頭から外して、これから戦おう、伸びようとしている尖った業者に武器となる尖ったサービスを開発いただくのが最もマッチするのだと思います。

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shiro-shita

仙台在住の”不動産コンサルタント” 就職超氷河期世代かつリーマンショックの直撃を受けたりと時代に翻弄され不動産会社を転々。苦く、しょっぱい経験に裏打ちされた不動産スキルはある意味ではリアルそのもの。

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