貸し手

不動産会社に依頼した入居者募集が決まらないときにやること 不動産オーナーによる物件マーケティング戦略の検証その1

不動産賃貸業オーナーにとって空室リスクは常に付きまとう問題で、ちょっと空室が出ただけなら大した問題ではありませんが、不動産会社に空室・空区画の募集を依頼したものの何ヶ月も音沙汰ないと、さすがに不安になってくるでしょう。

それでも、

「きっと不動産会社はちゃんとやってくれているはずだ。物件は古いし、立地がいいとも言えないのでこんなもんだろう」

そんなお行儀のいいオーナーもいるでしょうが、

「不動産会社め、きっと手抜きしているに決まっている!」

手厳しいオーナーもきっといることでしょう。

しかし、こういったときに本来やるべきことは、不動産会社に対する自分の許容度を巡ってモヤモヤしたりイライラしたりすることではなく、

物件のマーケティング戦略をオーナーとして練り直すことです。

物件はどのような商品で、どういった顧客ターゲットで、どのように物件の良さを伝えるかを検証し、見合わないものであれば修正するのです。

本記事では、空室・空区画を抱えるオーナーに向けて、物件のマーケティング戦略の検証方法について解説します。

不動産オーナーによる物件マーケティング戦略の検証

マーケティング戦略の検証【物件の特徴(コンセプト・商品性・強み)】

まずは物件自体をよく把握することが大切です。

借り手からしたら、物件を借りるのには賃料が掛かるので、それなり以上の特徴がない物件は借りません。

物件がどんな特徴であるかは最低限押さえる必要があります。

特徴?と思う方もいるかもしれません。

もともと物件を建てたときには設定されていたはずで、何も考えないで闇雲に建てたはずありません。

中には、マンションのように部屋数が多いと、全体としてのコンセプトはあっても部屋によっては必ずしもそうではない部屋(捨て部屋)があったり、

築年数が経つと物件の劣化、社会の変化から当初の設定が通用しなくなり変遷を余儀なくされますが、

いずれにせよ、現時点で何らかの特徴がない物件に借り手はつきません。

駅が近い単身者向けで、鉄筋コンクリート造のオートロック付きなので、プライバシーを重視する若いサラリーマンにフィットとか、

駅からは離れているけど駐車場が各部屋にあるファミリータイプで、学校もそれなりに近いので、お子さんがいて車通勤の家庭にフィットとか、

何らかあるはずです。

築年数が経っていて、駅も遠く、間取りも前時代的で、設備も更新されておらず、まるでいいところなし、といった場合は価格勝負で安いことが売りになるのでしょうが、価格だけで競争すると果てしないので、やはりもうちょっと売りがほしいところです。

立地、築年、構造、間取、広さ、設備等から物件の特徴を検証してください。

マーケティング戦略の検証【競合物件、ペルソナ】

競合物件

物件に確固たる特徴があったとしても、そのエリアにそのようなニーズが全くなければ借り手は付きません。

逆に、物件の特徴が大したことがなくても、エリアにニーズが旺盛であれば借り手に困りません。

富士山の山頂でスポーツドリンクを販売すれば価格が倍でも売れるでしょうが、糖尿病専門病院の待合室だと半額でも売れないでしょう。

物件に市場ニーズがあるかはとても重要ですが、問題は市場ニーズの有無をいかにして掴むかです。

エリアの世代別人口といった統計資料はありますが、そこからどういった物件にニーズがあるかまで類推するにはまだミッシングリンクが存在します(エリアに流入する人口、成約した物件の数、成約した物件の傾向など)。

物件に現在入居している人になぜこの物件にしたかを聞くことはできますが、数人(せいぜい数十人)のサンプルでは偏った結論が導かれる恐れがあります。

もちろん街行く人1000人にインタビューなんてやってられません。

そこで、調査すべきは競合物件です。

もちろん、競合物件を調査したところで市場ニーズを完璧に掴める訳ではありませんが、ちゃんと調査すれば市場ニーズに肉薄できるはずです。

エリアの似た条件の物件がどういった賃料で募集していて、建物グレード、面積、設備仕様等はどうか、全体での入居率はどうか、そして、プロモーションでは何をどうアピールしているか、物件は成約になるかを把握します。

入居率を確認するには現地に行って実際に部屋に人が住んでいるかを確認したり、成約するかどうかは募集情報を定期調査しなければならず、手間と期間が掛かりますが、そうやって競合物件を分析することで、自分の物件の市場における競争力を相対的に把握することができるようになります。

ペルソナ

ペルソナとは想定顧客のことです。

物件に市場ニーズがあるというのは、エリア在住の方すべてに物件が検討候補になるまでの必要はありません。

一定数の方にとって検討候補になり、そのうち誰かにベストな選択肢となればばいいのです。そんな一定数の想定顧客がペルソナです。

空室が一部屋だったら究極的にはペルソナはたった一人でも成約する可能性はありますが、普通は一部屋であっても一定数のニーズがなければ継続的な賃貸業は難しいでしょう。

前半のまとめ

さて、一定のペルソナがいるような市場ニーズのある物件でしょうか。

市場ニーズがないのであれば不動産会社に決まらないと文句を言う以前の問題です。

(不動産会社が物件に市場ニーズがないのを指摘し、その対策をアドバイスしてくれないのは不親切ではありますが)

市場ニーズがなければ、バリューアップ(リフォーム)等で特徴を補完する必要があります。

バリューアップには費用がそれなりに掛かり、費用に対し効果がなかなか見通せないし、思ったほどの効果がなかったりしますが、バリューアップは不動産賃貸業の一大テーマで様々な先行研究があるので、不動産賃貸業をしている以上は各自、研究を重ねていただければと思います。

それでは、次回はプロモーションの検証について解説します。

(次回に続く)

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shiro-shita

仙台在住の”不動産コンサルタント” 就職超氷河期世代かつリーマンショックの直撃を受けたりと時代に翻弄され不動産会社を転々。苦く、しょっぱい経験に裏打ちされた不動産スキルはある意味ではリアルそのもの。

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