城下個人的

人生の底だった23歳の夏

人生一発逆転の千載一遇のチャンスというほどのものはなく、未来は目の前の現実の先にしかないので、現実に向き合って少しずつでも前に進めるしかないという、ごくごく当たり前のことをやっと受け入れた私の過去のできごとについてです。

前回の記事:何者にもなれてないアラフォー・アラフィフ男の反抗

今から23年前の夏、23歳だった私は自転車で旅に出ました。

大学を卒業したものの、定職はなく、実家に1年ちょっと寄生していましたが、さすがに居づらく飛び出すような自転車の旅でした。

就職氷河期世代のど真ん中の就職”超”氷河期世代ではありますが、一応、国立大学だったので在学中は企業から就職説明会の案内は山ほど来ました。でも、イマイチ就職に本腰が入らず、音楽やりたいな、とか、卒業論文書けないかも、みたいな感じでスルーして、そして本当にそのまま卒業したら、新卒の肩書がなくなった私にはどんな企業からも就職説明会の案内は来ず、こちらから就職説明会に出ようにも新卒でないと門前払いされたり、何とか面接に漕ぎ着けても数週間後に不採用の通知が届くといった日々でした。

就職試験に落ちると、それがたかが数社であっても、自分に価値はない、世の中に自分の居場所はないという思考に陥ります。

親は面と向かって言ってはきませんでしたが、気持ちは痛いほどわかります。せっかく大学まで行かせたのにどういうつもりだと。いつ詰問されるのかと思いながら実家でビクビクして過ごしていました。

それで旅に出たのですが、親に伝えた旅の目的は自転車でどこまで行けるのかの実験で、可能なら仙台から沖縄までと。さすがに家にいづらいとは面と向かって言えません。親は旅の目的に納得した訳ではないでしょうが、就職に本腰を入れる前の最後の思い出作りと思ったのか反対はしませんでした。

しかし、私の本心としては、実家からの脱出とともに、無鉄砲な旅により道中、不慮の死を遂げることを期待していました。

私としては当時の状況を”詰んだ”と捉えていたのです。

就職して毎日朝から晩まで働いて職歴を積む以外にまっとうに生きる道はないと思いながらも、その人生に後ろ向きでしたし、そもそも採用されない。就職して職歴を積む困難さを考えれば死ぬ方が容易いと思えました。

だから、私が旅から実家に戻るのは、旅でよっぽどの出会いや出来事があって人生一発逆転したときか、亡骸として戻るかどちらかだと思っていました。

過酷だった自転車の旅

そんな覚悟に満ちた?旅が始まったのですが、開始して数時間もすると旅の過酷さを思い知ることになります。

日本の国土の3/4は山であり、登りがあればそれと同じくらい下りがあるとはいえ、登りは時間が掛かるので、自転車を漕いでいる時間の半分以上が登りに感じます。たいていは国道を走りますが、たまに地図上で早そうだからと地方道に入ると恐ろしい勾配の坂道だったりします。旅は全国の景色を見るのが一つの楽しみですが、日本全国の国道沿いの景色は大して変わり映えしません。

また、無職の自分が十分な旅の資金を用意している訳はなく、宿泊は基本、野宿です。現代よりは不審者に対しおおらかな世の中でしたが、私なりに気を遣いますし、気が引けます。道の駅のベンチみたいなところが適度なひとけと適度な気にされなさでベストでしたが、都会の公園は治安が不安で、山奥も不気味でした。また、夏なので夜でも暑かったり、蚊に寄られたりします。

上り坂に全ての生気を吸われ、ときに車に煽られ、夕方になると寝床を心配しながら、先の見えない旅を続けるのです。

旅を続ける…

開始数時間で旅の過酷さを思い知り、1日目に野宿した翌日にはすでに限界に達しているのになぜ旅を続けるか、

それは、遠くに来すぎて帰れないからです。

実際、ハードオフに自転車を売って電車で帰ろうとしたのですが、生々しい使用感があったためか買い取りを断られ仕方なく旅を続けました。

バンジージャンプ飛んでみる!?

そんな旅の道中、群馬県を走行中(埼玉あたりで沖縄は無理と悟り、日本海に抜けようとしていました)ロックハート城という遊園施設の看板が目に止まりました。

「現在、バンジージャンプ無料サービス中!」(的な内容でした)

好奇心がそそられました。

バンジージャンプとはいえ、所詮は恐怖を楽しむアトラクションです。死ぬつもりで旅をしている私にとって怖いはずがありません。身じろぎ一つせず秒で飛び降りる私に人々は驚嘆することでしょう。

私はロックハート城に向かいました。

そして、ロックハート城のバンジージャンプ台に立ってみると、

ロックハート城自体が高地にあるので、ジャンプ台の上からは周囲がパノラマのように一望でき、私がこれから飛び降りるであろう足元はミニチュアの世界で、これから私がそこに移動することに実感が湧きません。最初は私1人にはオーバースペックと思った命綱も急に心許ないものに感じてきます。

「ヤベー、めちゃめちゃ怖い、こんなところから飛び降りられるはずない!」

一応、後ろで待っている人がいたので、迷惑掛ける訳にはいかないので何とか飛び降りましたが、反動で何度か上がったり下がったりする間、無気力かつ無抵抗におさまるのをただひたすらに待ちました。その間、生きた心地はしません。

バンジージャンプ直後の私 隣は現地で偶然お会いした方

甘かった自分 人生の底を打つ

当時の私のステータスは「就職浪人」と言うのが適当でしょうが、私はそれまでそれを本当には受け入れていませんでした。思いがけない偶然が私を拾い上げてくれるのではないか、ひょんなことから眠っていた才能が開花するのではないか、みたいな淡い期待をどこか捨てきれないでいて、それがダメならいっそのこと死んだ方がマシだと思っていました。

しかし、就職浪人から逃げて自転車で旅をすれば、自転車の旅の過酷さが立ちはだかり、

さらに、追い討ちを掛けるように、死ねばいいという考えすら塞がれます。絶対に死ぬことがないアトラクションですらこんなに怖いのに、私に死ぬ覚悟があるとは到底思えません。確かに、私は「生きたくない」とは言えるでしょうが、「生きたくない」と「死ぬ」の間には決定的な差があり、私は自分では決して死を選ぶことはできない人間だったのです。

逃げ場を失った私は、やっと理解します。

就職して職歴を積むというツライ現実を受け入れる以外に自分の生きる道は残っていないと。

バンジージャンプをした23歳の夏のその瞬間は人生の底でした。

自転車の旅はその後、三国峠を越えて新潟に抜け、そこから日本海側を北上して、青森県陸奥半島から北海道にフェリーで渡り、苫小牧まで行って、フェリーで仙台まで戻りました。

戻ってからは、バイトをしながら就職活動を行いましたが、やはり現実は厳しく、非正規の仕事をしたり、仮採用されたものの本採用で落とされたり、やっとのことで定職に就いた頃には26歳になっていました。

ところが、そこからがまた苦難で、仕事がつらくて心療内科に通ったり、リーマンショックで勤めていた会社がダメになったり、自己都合、会社都合で転職を繰り返しました。

それで今はアラフィフになっても相変わらずの体たらくですが、それでも、これまでの最悪のピークはいつかと聞かれれば23歳の夏と真っ先に答えます。あそこで底付きして以降は緩やかながらも跳ね返り、それこそ10やることがあれば、なるべく翌日の分も含めて11やるみたいな感じでにして、少しは状況が良くなってきたのだと思います。

アラフォー・アラフィフはキャリアを生かして計画的に

未来は目の前の現実の先にしかない。

私はそう思っているというか、それは普遍的真実と言っていいのではないでしょうか。

なので、渋々でも現実を受け入れ、やらなければならないことを把握し、それを少しずつこなしていくしかないのだと思います。

そんなことをしていても何者にもなれない、お前レベルで満足したくない、と言う人もいると思いますが、

逆に、本当にアラフォー・アラフィフで一か八かでアクションしてそこが突破口となると心の底から思っていますか?本当は目の前の現実に向き合わなければならないとわかっているんじゃないですか?

もしくは、目の前の現実を受け入れて少しずつこなすしていくにはアラフォー・アラフィフでは遅すぎる、お前のように23歳ならいいけど、と言う人もいると思います。

アラフォー・アラフィフでも60歳や70歳より早いですし、23歳の私とくらべて世の中を熟知していて、キャリアがあるので、適切な目標地点とそこに至る現実的な計画を策定できるでしょうから、目標次第ではありますが、私ほど時間は掛からないでしょう。

よもや時間がないからといって計画も立てずに一か八かでアクションしている訳ではないですよね、引き寄せの法則とか言って?

もしそうならいい年して無計画に易きに流れ陰謀論やスピリチュアル系に走ったと恥かくだけなのでやめた方がいいです。

それでもやるなら私が自転車の旅をしたときのように裸一貫になってやるべきです。仕事をやめ、夫婦関係を解消して空っぽになって飛び込めば乾いたスポンジのように吸収するでしょう。それこそ引き寄せの法則も起こるかもしれません。

実効性のある計画がなく、覚悟もないのに周囲が気に掛けてくれるのは、若者であってもそうあることではありません。ましてやアラフォー・アラフィフならまず皆無でしょう。

なお、もし、計画に本腰を入れる前の最後の思い出作りと自転車の旅をする場合、いきなり飛び出すと、普段サラリーマンのアラフォー・アラフィフは多分半日持たないと思います。

裸一貫、空っぽになってと言いながらも、それなりには体を鍛えたり準備をしないと痛い目に遭いますのでご注意ください。

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shiro-shita

仙台在住の”不動産コンサルタント” 就職超氷河期世代かつリーマンショックの直撃を受けたりと時代に翻弄され不動産会社を転々。苦く、しょっぱい経験に裏打ちされた不動産スキルはある意味ではリアルそのもの。

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