不動産知識・テクニック

アパート・マンション自主管理マニュアル③「非常時体制」

第3回は例えば深夜にトラブルが発生したといった場合の対応です。

アパート・マンション自主管理マニュアル①:入居者からの連絡受付体制
アパート・マンション自主管理マニュアル②:入居者クレーム対応

賃貸経営の最大のリスク”非常事態”

賃貸経営には様々なリスクがありますが最も避けたいのは非常事態です。

地震により建物全体が傾き修理費用は建替えレベル
大津波に丸ごと流される
猟奇的殺人事件の舞台となる

投資としてはゲームオーバーですが、賃貸借契約の解約や借金の返済、不動産の売却手続きといった罰ゲームが悪夢のように続きます。

 
そこまで行かなくても

揚水ポンプが故障して全戸水道が出ない
外壁材が落下して通行人が大怪我
不同沈下して下水が流れなくなる

多額の修理費用が掛かったり、損害賠償請求を受けることもあります。

 
非常事態による損害は最悪その物件の投資を一発ゲームオーバーにするのみならず、人生そのものを終了させかねません。そこまでの事態でなくても、初動対応が悪いと影響がダラダラと長期化する恐れがあります。

 
このような非常事態のインパクトの大きさを思うと、非常時はフィーを払ってでもプロに任せて…と考えがちですが、

 
そもそもですが、非常事態そのものと、今回テーマの非常時体制は別物です。

非常時体制はリスクマネジメントの一要素


整理しましょう。

  • 非常事態 → 上述のようなアクシデント
  • 非常時体制 → 非営業時間帯における非常事態についての連絡受付方法と、受付後の対応方法
  •  
     
    だからといって非常時体制だけを検討しようというのも早計です。

    管理者である以前に賃貸経営者としてはまずはリスクマネジメントについて熟考する必要があるからです。

     
    仮に発生したら即ゲームオーバーとなるリスクはなるべく潰すか、保険を付保する必要があります。もちろん、リスクは無数にあるのですべてをヘッジするのは不可能ですが、その場合でも、リスクレベル(=発生した場合の損害額 × 発生可能性)が上位のものについては日頃から発生可能性を下げる取り組みを実施すべきです。

    例えば、物件に行く毎に屋根の取り合いや外壁のつなぎ目といった劣化が起こりやすい箇所を見る癖をつけたり、設備の耐用年数をもとに大規模修繕計画を立て費用を積み立てたりです。

    入居者による火災、自殺、刑事事件等はオーナーにとっては人災であり、管理運営クオリティーを上げる&入居者のレベルを上げる、ことで発生可能性を低下させることができます。

    もちろん、戦争や宇宙からの飛来物のように全く対処不能なものもありますが、それらの発生可能性はほぼゼロです。都市伝説に振り回されるようではビジネスはできません。

    これらを検討し方針を決めるのがリスクマネジメントです。

     
    その中で非常時体制も検討項目となりますが、リスクマネジメントという一大テーマに対しては些細な話です。

    起こっても大丈夫、もしくは起こりにくくすることがリスクマネジメントの目標なので、それができれば、非常時体制は薄くてもいいからです。

    むしろ、リスクマネジメントを検討せずに、やたら重厚な非常時体制だけ敷くという愚を犯さぬよう注意すべきです。

     
     
    その上で非常時体制についてですが、

    そりゃ、非常時連絡の受付体制があり、即時に対応能力のある人材が駆け付けるのが管理クオリティーは高いと言えますが、それはコスパにかなうのかというと戸数にもよりますが疑問です。それらは非常事態それ自体を抑止するものではなく、二次被害や賠償責任を含めた損害拡大の抑制が主目的となるので。

     
    個人的には、リスクマネジメントをしっかり煮詰めた上で、通常の業務体制で非常時も対応するでいいと思います。

    非常時体制はどうすべきか

    という訳で、受付方法は入居者窓口とほぼ同様です

    ・自分で電話を受ける
    ・留守録
    ・メール(SNS)
    ・WEBに問い合わせフォーム
    ・24時間受付サービス
    ・電話受付代行や自動応答システム
    ・警備会社

     
    そして、非常連絡があった場合の対応ですが、

    ・自分で対応する
    ・リフォーム業者等に依頼する
    ・専門の駆け付け業者に委託する

     
    私のオススメは通常の受付&業務体制のままやることですが、夜間等の非常事態でいつもの業者に連絡がつかないというときはどうするかというと、自分自身で駆け付けるのです。
    (物件が遠方で物理的に行けないということもあるでしょうが、そういう人はそもそも自主管理化は検討していないでしょう)

    行ったところで何もできないと思うかもしれませんが行かないよりはマシです。

    というか、本当は日々の自主管理業務の中でノウハウを蓄積させた上で自分で行くということです。

    自分なので外注よりも本気度が高いですし、入居者のことを知っていて信頼関係を築けていたりしますし、もちろん自分なのでフィーが掛かりません。それに、日々業務で接していれば、いつもの修理業者やメーカー担当者が夜中でも電話に出てくれて、駆け付けはできなくてもアドバイスをしてくれたりします。

     
    逆に外注のデメリットですが、

    まず費用の高さです。24時間365日対応を謳っていて費用発生は依頼時のみのサービスはあまり聞きません。たいていは一回も連絡しなくても1部屋毎月500円程度の定額課金です。もちろんほとんどの契約では入居者負担になっておりそれならオーナー負担はありませんが、入居者にとっては賃料と同じで、それがなければその分を賃料支払えるので実質的に賃料を逸失しているのです。

    そして、そういったサービスは通常の業務体制とリレーションがイマイチです。彼らの本体はコールセンター業務がメインで、実際の駆け付けは提携業者に丸投げしているので、施工単価は割高、というかそもそも応急処置までしかできなかったりします。なので、本格的な修理が別途必要で、その場合、だいたいは修理業者が改めて現地調査から行います。

    ちなみに私の知っているそんな会社の一社は入居直後の不具合はサポート外で、呼ばれて行っても何もしないで費用だけ請求するという詐欺のようなサービスポリシーを採用しています。その会社は特別ハズレなのだとは思いますが、彼らの多くは東京の利益至上主義の会社で、コールセンターも外注してて中抜き専門だったり、保証会社や管理会社へのバックマージンまみれだったりと、会社の選別にリテラシーが必要です。

    オーナーは非常事態から逃れられないのが賃貸経営


    日々真面目に自主管理していれば人的ネットワーク、ノウハウも蓄積していくはずであり、その蓄積が特に非常時にものを言います。

     
    そして、私が非常時に自分で駆け付けるのをオススメするもう一つの理由は、そもそもみなさんが賃貸経営を志したのは(自動的に相続した人を除き)普段は特に何もしなくても自動的に収入が上がるビジネスだからだと思いますが、そのことは裏返せば非常時には責任を逃れられないということであり、そのリスクの重み故にリターンがあるのです(リスクとリターンのトレードオフ)

    そのリスクから逃げたり、見ないようにするのは経営者として失格です。

     
    当事者意識のある地に足を付けた賃貸経営を継続する上でも、リスクマネジメントの熟考と、非常時は自分が対応する意識をなくしてはならないのだと思います。

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    shiro-shita

    仙台在住の”不動産コンサルタント” 就職超氷河期世代かつリーマンショックの直撃を受けたりと時代に翻弄され不動産会社を転々。苦く、しょっぱい経験に裏打ちされた不動産スキルはある意味ではリアルそのもの。

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